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「おっと。もう終わりの時間か。次の時間は、確か体育だったよな。……次回は来週の木曜日だ。では、ここまで」
ガラガラ。
わたしは、生徒たちが思い思いに授業終わりの羽を伸ばし始めた教室を後にした。
さっきとはうってかわってカラフルじゃないか。
全く。
リノリウムのペタンとした硬い感触をスリッパ越しに感じながら、長い廊下を歩いていると、向こうから歩いてきた新任の野村先生とすれ違った。
軽く会釈。
彼は二十代前半だ。よくわからないことに、なよなよとした雰囲気が良いと、生徒から人気を集めているらしい。
「いやぁ。まだ慣れませんね。色がころころ変わる最近の子は」
野村先生自身は、色が変わる世代ではない。
「まあ。ですが、むしろ生徒の気持ちやなんかが伝わってきて便利じゃないですか」
無難な答え。実際の私の気持ちでもある。
「いや。それが困るんですよ。真っピンクに髪が染まった子に、なんて接すればいいと思います?」
ああ。それは女子高生に良くある病気だ。
そのくらいの年ごろの子は、自立した大人の男性に魅力を感じるらしい。
「しばらく夢を見させてあげるのも良いかもしれませんよ」
「はぁ……なんというか、やるだけやってみます」
「その意気ですよ」
無責任なセリフを吐きつつ、野村先生と別れる。
さて一服でもしようかと、わたしは校内全面禁煙の校舎に唯一ある、教員専用の喫煙ルームへと足を運んだ。