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脳下垂体  作者: ジョセフ
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脳下垂体という器官をご存知だろうか?

読んで字の如し。脳の下に垂れている物体。もとい、器官だ。


「この脳下垂体という部分は、大抵の生き物の脳に備わっている器官で、体のホルモン調節を行う重要な部分。ホルモンとは、体の特定の器官に特定の働きを指示する物質だ。

脳下垂体の構造は、前葉。中葉。後葉。と三つに分かれていて、それぞれ様々な指令を体の各部に送る。ここで面白いのは、脳下垂体から出るホルモンは、ホルモンを出すよう指示するホルモンを出すように指示するもので、このことから一般に、放出ホルモン刺激ホルモンと呼ばれ…………」

「はぁ……」

こじんまりした教室の中。名前ごとに決められた席に座った生徒。その中の一人がため息をついた。

また山本か。全く。

あれほど授業中にプールのほうを見るなと……おっと。

見れば、生徒の大半が、髪を真っ白に染めている。

しまった。つい熱が入ってしまった。生徒が話についてきてないじゃないか。

午後の拭いきれない気だるさのせいもあってか、眠そうな空気が教室を支配している。

よし。いったん生徒たちの目を覚ませるか。

教室を見回す。

わたしは生徒の中でもひときわ目を引く、眩いばかりの白髪の少年に声をかけた。

「おい! 佐藤! 起きろ!」

 いつから寝ていたのか。こっちが気になるほど爆睡を決め込んでいた佐藤は、わたしの声が掛かってしばらく後、ぴくっ。と上体を反応させて目を覚ました。少年の髪が青白く変色する。

「…………すいません。寝てました……」

「見ればわかる……」

 なんという常套句。お前はメールを返しそびれた女子中学生か? いや、ここは素直でよろしいと評価するところか……

「では。この脳下垂体中葉とは、どのような働きがあるのか説明してみなさい」

あまりに簡単な問題だ。サービス問題と言い換えてもいいかもしれない。

「……」

答えに窮する佐藤。

おいおい。うそだろ……?

「…………」

少年は、もじもじと俯いていて。その毛髪は見る見る灰色に、虹彩は淀んだ茶色に染まっていく。

「はぁ……もういい。佐藤。授業が終わったら職員室にくるように」

「ええ! 先生。勘弁してくださいよう」

「だめだ。佐藤。寝るな。勉強しろ。職員室にこい」

「それセクハラっすよ?」

 一部始終を見ていた生徒たちの軽い失笑。

はぁ……うぜえ。

「もうお前は座っていろ……他にわかる奴いないか?」

しぶしぶ自分の席に座る佐藤を見送ると、視界の片隅で、挙げられている小さな手のひらを捕らえた。

「よし。川口。答えてみろ」

「さっきの佐藤君のように、私たちの髪や瞳が変色するために重要な働きをします」

「そのとおり。中葉はメラニン色素の調節を行う」

 近年まで人類の中葉は、成長するにつれなくなっていくものだった。当然それでは、メラニン色素の調節。つまり、髪や目などの色を自由に変えることもできない。

 しかし、最近。成長しても中葉が消えていかないという子どもが増えてきた。原因は不明だが、感情をそのまま色にして表に出すことで、それまで言われ続けていたコミュニケーション能力の不足という問題が一挙に解決されたことは記憶に新しい。

「わかったな。佐藤」

「……はーい」

答える佐藤は、どうにも髪の色が抜けている。

ほんとうにわかっているのか。

再び教室を見回す。

うんうん。今のくだりでだいぶ集中力が戻ってきているようだな。

川口など、一部の生徒は授業開始から一向に変わらず黒い髪のままだが、他の生徒には色が戻ってきていた。

「えー。では。授業を続ける……」

と。

授業の終わるチャイムが鳴った。


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