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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep1.病院と兄妹
7/61

1-6

「へえー……で、妹さんは?」

 紅也は看護人用の丸いすに腰掛け、器用にも足を折り曲げ、椅子の上で体育座りをしていた。生きてたよ、と俺は答える。

「そりゃ良かった。ま、今生きてる以上当たり前だけれど」

 ふふ、と笑って、紅也は言う。俺はベッドに横たわったまま、紅也に顔を向けて話を続ける。

 ――妹は、バスルームにいた。制服を真っ赤に染めて、両親の死体と一緒に、シャワーから流れ続けるお湯の湯気の中に。放心したように、手には包丁を持って。

「お兄ちゃん――」

 そう呟いて、妹は、気を失った。

 それから二年間、ずっと意識は戻らない――。

「へええ……。だから、『眠り姫』なんだね」

――あ?

「君の、イメージさ。妹さんに対する、イメージ」

――何だ、それ。イメージ?

「ううん、自覚症状ないのか。ま、どうでもいいよ」

――…………。

「そっかそっか。そういう経緯があったんだ。二年前、……というと、君が高校一年生、妹さんは中二かな?」

 どうして妹の年齢まで分かるのか、という疑問は、紅也が悪魔だから、という事実によってかき消される。

――正確には、俺が中三の時の冬だ。……ん。

「ん? どうかした?」

 紅也は少し首を傾げて、少女のように微笑む。見た人間皆、目眩を起こしそうになるであろう微笑み。でも、『病気』の俺には通用しない。

――どうしてお前、妹と俺の歳の違いについては分かったくせに、今の事件については知らなかったんだ?

 俺の問いに、紅也は一瞬目を見開き、「ああ、」と納得したように肯いた。

「君の心の中って、覗きづらいんだよ」

――……覗きづらい?

「僕はね、人の心を読む。心の中に刻まれた、記憶、経験、思考、etc.……なんでもね。でも、僕に心を開かない人間の心は、読めない」

――俺が、そうだと?

「そう。君なら分かると思うけど――」

 一旦言葉を切って。紅也はまた、あの見下すような目つきで。俺を見下ろす。

「他人に興味を持てない人間は、他人に対して心を開かない」

――…………。

「決して、ね」

 低い声で付け足して、紅也はにいっと笑う。悪魔の笑い。純然にして高潔な、どこまでも邪悪で、――美しい。

 背筋が寒くなったが、どうしてなのかは分からない。

 こいつが悪魔だからか、それとも。

 こいつが、こいつだからか。

「だから、妹さんについては君の中のイメージと、表面的な情報についてしか、覗けなかった」

 そういうわけさ、と紅也は薄く笑う。

 そういうわけか、と俺は苦笑いする。

「まあともかく、教えてくれて有難う。本当は、教えるの、嫌だったんでしょう」

 あまり有難がっていない、尊大な口調で、悪魔は赤い瞳で言う。

「お礼、本当にいらないの?」

――…………。

 悪魔からのお礼、なんてろくなものではないに決まっている。こいつのことだから『お礼の対価』として何かよこせなどと言ってくるかもしれない。

 などと考えていると、紅也が椅子ごと近寄ってきた。そして。

 俺の額に、口づけをした。

――…………。

「まあまあ、そう睨まないで。これは、僕からのお礼」

――…………?

 急にうとうとと眠気が差してきて、俺は目を閉じた。

「君が今一番見たい夢を見られるよ。お休み、良い夢を」

――……紅也……?

 紅也の顔はすぐにぼやけて。

 俺は、眠りに落ちた。

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