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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep2.姉妹(キオク)
60/61

3-7

「あ……、これ、小さい頃の大黒かなー……」

 島は、テレビラック上の写真に見入っている。俺もつられて、その隣の写真に目をやる。

――…………。

 どうやら『父親の会社』の創立記念パーティーでの写真らしかった。スマートな紳士といった感じの、恐らくは父親であろう男性と、上品な佇まいの母親らしき女性、そして彼女に抱きかかえられた少女――これが大黒だろう――が写っている。よくよく見ると、彼らの後ろに垂れ幕が写っていた。

『祝! 大黒運輸株会社創立』と書かれていた。

 ――――……大黒、運輸。

 石油等の輸入、ガソリンスタンドの経営、その他配達業など、幅広い仕事を請け負っている、大会社。

 …………『大黒』、運輸。

――…………。

 うえー……本当のブルジョアだったのか。

「ん、どした更衣? 顔色わりーぞ」

――あ……いや、何でも。……座ろうぜ? 大黒来ちゃうし。

「ああ、そだな」

 島には、こんな残酷な現実を見せる気にはなれなかった。短絡的で単純な島のことだ。多分、相当落ち込むに違いない。

 ……落ち込まれるのは、どうでも良かった。が、それに付き合わなければいけなくなるのは、俺としてはどうにも面倒なことだった。回避できる面倒ごとなら、なるべく全てを回避したい。俺は、そう思う。

「お待たせー。ドラ焼きと、日本茶、どうぞ〜」

 静まり返っていたリビングに、大黒がお盆を持って帰ってきた。……ドラ焼きと、日本茶、ねえ……。

 少し拍子抜けして、俺たちは一口かじる。……美味い。

「おいしい……」

 咲屋は驚いたように呟き、島は一言も喋らずに頬張る。俺たちは黙々と菓子を咀嚼し続けて、飲み込んだ。続いて日本茶をすする。

「こ、これも美味しい……」

 咲屋はもう、驚きというよりも呆れたような、諦めたような言い方で、湯飲みを置いた。ドラ焼きも日本茶も、さしてこだわりを持たない俺でも分かるほど、一級品だった……。

「どうだった?」

 大黒は少しだけ不安げな表情で、俺たちを見回す。

「美味しかったよ、小白ちゃん」

「美味かった!」

――美味しかった。ご馳走様。

 それぞれに、同じ意味の違う言葉を口にする。大黒はほっとしたようににっこり微笑んで、

「……良かった。ちょっと、いつも来客用に取ってあるお茶葉が切れちゃってて、間に合わせだったから不安だったの」

「…………」

「…………」

――…………。

 誰も、一言も返せなかったことは、言うまでもない。

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