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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep2.姉妹(キオク)
59/61

3-6

「ふえー…………」

 何階建てかは知らないが、見上げていると首が痛くなるような高層マンションを一目見て、島はそんな感嘆を漏らす。

「ふうえー……」

 更に、もう一度。

「ふ……」

「しつこい、島」

「はい……」

 大黒が、眉をしかめて島を一刀両断する。

――……にしても、高いな……。何階まであるんだ、これ?

「20階まであるって」

――すごいな……。大黒は、何階に住んでるんだ?

「うーんと、13階」

――…………。

 縁起悪いな、とは。流石の俺でも、言えなかった。

 かくして、俺たち四人は清潔なエレベータに乗り込み、13階まで上がる。このエレベータは壁の一つ、丁度入ってきた時に真正面に見える位置、つまりはその入り口の反対の壁面が、一面ガラス張りになっており、上に上がるにつれ、街を一望できるようになっていた。

「ふ……うわー、すごいなー景色……」

 島は先ほどのことを学習したらしく、『ふえー』という間の抜けた感嘆詞を使うことを、途中で止めた。

「そう?」

 大黒はさして気にしていないらしく、窓の外の風景に、目をやろうともしない。――ま、そうだろう。毎日見ている風景なら、いちいち反応するのも面倒なのに違いない。

「……綺麗……」

――ああ、綺麗だな。

 咲屋は、誰にとも無くそう呟いた。俺も、誰にとも無く、相槌を打つ。咲屋はエレベータが止まるまで、じっと外を見つめていた。

『13階に到着しました』

 アナウンスと共に、ドアが開く。ぞろぞろと、俺たちは外へ出る。エレベータを出てすぐのところに、『大黒』という表札のある扉が眼に入った。

「ここが私の家だよ。どうぞ上がって上がって」

 大黒はがちゃりとドアノブを開け、照明を点けた。明るく照らされた玄関に、まず島が、次に咲屋が、最後に俺が入り、靴を脱ぐ。

「――って、広っ! 何この玄関……オレの家の玄関より、三倍は広いぜ?」

「うわ……三人入っても、まだ余裕があるよ……」

――…………。広い、な。

「そうかな?」

 先に玄関から廊下に上がっていた大黒は、首をかしげた。

「そんなに広いとは思わないけど……?」

 いや、大黒の家の玄関は、十分に広かった。それだけで一つの部屋になってしまうほど……とは言い過ぎかもしれないが、ともかく金持ちの家だということが、入った瞬間に分かってしまう……そんな雰囲気を漂わせた、玄関だった。そういえばさっき、この階に着いたときには大黒家の扉しか見当たらなかった。エレベータは、俺たちが乗ってきたものだけだったはずだ。つまりそれは、このマンションのワンフロアまるまるが、大黒の家であるということを意味している。……これを広いと思わないということは、大黒は恐らく、もっと豪勢にやっている家を知っているのだろう。

 こんなにも身近にセレブがいたとは思わなかった……。

「さーさー、玄関なんかで満足しないでよね! とっとと上がった上がった」

「お……おう」

「うん……」

――ああ……。

 めいめい気後れしたような返事をしながら、大黒の後に続き、リビングへと向かった。

「…………」

「…………」

――…………。

 そこは、予想していた通り、『金持ちの家のリビング』だった。

 何というか――そのリビングは、とにかく広かった。広い上に、きちんと整理整頓された家具が程よい調和をなしていて、まるでどこかのモデルルームのよう……いや、あそこまで安っぽくはない。

 中央には薄型ハイビジョンテレビ――地デジ対応。一体何インチだろう、少なくとも俺の家のものの、五倍はありそうだ。テレビラックには写真立が数個置いてあり、ケース内にはビデオからDVD、CD、MD、果てはテープやレコードまで、ありとあらゆる記録メディアが積み重なっていた。カーペットは毛足が長く、もこもことしていて肌触りが良い。テレビに向かって配置されたソファは革張りで、座らなくてもすわり心地の良さが分かるようだった。部屋の隅には食卓テーブル――これまた大きく高級そう――が配置してあった。どうやらこのマンションは、対面式ダイニングではないようである。

『ゴポポポポ……』

 妙な音に振り返ると、リビングに入るドアのすぐ隣に、これまた必要以上に大きな水槽があった。中にはあまり見慣れない、美しい色の大きな魚が――。

「あ、これアロワナだろー大黒」

「うん。パパが買ってきちゃって……。世話、大変なのにさ……」

 …………アロワナ、か。

 金のかかる観賞魚だ。アロワナの飼育費くらい、余ってそうな家だもんな……。

「よし、それじゃあさっそく、勉強会、始めましょうか!」

 大黒は言って、先ほどの食卓テーブルを指した。椅子は丁度四脚ある。大黒は三人家族のはずだから、一つは来客用だろう。

「私、お菓子とか用意してくるから、適当に用意して待ってて」

 言い残して、パタパタと大黒はリビングを出て行った。お菓子か……。この分でいくと、とても庶民の口には合いそうもない、高級菓子が出てくるに違いない。

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