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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep2.姉妹(キオク)
56/61

3-3

そんなこんなで五月は過ぎ。

 初めぎこちなかった、新しい席順での生活にも、慣れてきた頃。

 俺は、咲屋とも、余計な感情を交えずに会話を出来るようになっていた。もとより他人のことには気を払わない性格だったので、彼女についての評判も気にすることなく、普通に、会話を。

「更衣君、一緒にお弁当食べても良いかな?」

 咲屋は、お弁当箱を手にして、ある日そう問うた。一人で食べようと思っていたところだったが、何人で食べようが本質的には変らない。

――別に、良いけど……。

 適当に肯きながら返事すると、咲屋はまた、あの無防備な微笑みを浮かべた。

「あ! ねえねえ更衣君! 私も一緒に食べて良い? 良いよねっ」

――え……いや、まあ良いけど。…………?

 咲屋だけでなく、何故だか大黒までそんなコトを言い出し、強引に机を寄せてきた。さっきまで別の女子のグループで集まっていたのに、急になんだと言うんだろう。……訳が分からず大黒を窺うと、彼女は。咲屋を、物凄い形相で睨み付けていた。

――…………?

 さっぱり訳が分からない。何だろう、何か厄介ごとだろうか。二人の争いに巻き込まれるのは御免だぞ。

「おー、更衣、もててんなあ」

 呑気な声が、前方から。島だった。

――そういう訳じゃないんだけどな。何か、二人とも仲悪そうだし。

「そうかぁ? そういう雰囲気でもないと思うけど。まあ両手に花ってことにしとけよ。……ところでさ、オレも一緒して良いかな」

――いや、まあ別に良いけど。

「サンキュー」

 いそいそと、島は購買のパンを手に、振り返る。かくして、俺は三人に取り囲まれ、昼食を取ることになった。訳が分からない、意味が分からない。さっぱりだ。さっぱり過ぎて、気味が悪い。

 何なんだ。

 俺の前には島が座り、咲屋と大黒は左隣と右隣で互いに向き合うように座る。こういう風に誰かと食事するのは、久しぶりだった。

――…………。

「なー大黒、その弁当自分で作ったのか? 上手だなー」

「ん、これ? いやまあそうだけど、この卵焼きなんか焦げちゃって」

「でも旨そうだぜ?」

「ありがと。ねえ更衣君、更衣君の好きなおかずって何?」

――え? えっと、から揚げ。

「から揚げかあ。よし、私今度作ってきてあげる! から揚げ弁当」

――え? あ……えっと、サンキュー……。

「あ、更衣君……私も、今度作ってきても、良い……かな……?」

――え、咲屋も? い、いや嬉しいけど。

 実際、絶賛一人暮らし中の俺にとって、毎朝の弁当作りは手間だ。二人が作ってくれるというなら、これほど都合の良いことはない。えへへ、と咲屋は照れたように笑い、大黒はその笑顔に、むき出しの敵意を向ける。……怖い。

「なー大黒、オレの分は作ってくれないのか?」

「は? なんで?」

「…………いや、何でも」

 極端に落ち込む島。あまりに淡白な反応だったためだろう。

「なー大黒……」

「そうだ更衣君、今度私に数学教えてくれない? 二人っきりで!」

――へ?

 大黒の視線は、俺ではなく咲屋に向いている。あー……、やっぱり俺、二人の争いごとの、だしにされてるな。何と答えれば良いのやら。

「あ、あの……更衣君、それじゃ私には、英語……、教えてくれない?」

 少しおどおどした風に、咲屋はそんなコトを言う。

――ええっと……。英語はともかく、俺は数学苦手なんだ。人に教えたりなんてできないぞ。

 俺が言うと、島は待ってましたとばかりに声を上げた。

「あ、大黒ー。オレ、数学得意なんだけど」

「ねー更衣君、良いでしょ? 私も英語で良いから」

「大ぐ……」

「あの……、更衣君、……良い、かな?」

――…………。

 皆、口々に言いたいことだけ言いまくって、俺をじっと見つめている。島は悉く大黒に無視されたため、ものすごく沈んでいる。分かりやすい奴だ。

――大黒も咲屋も、島と一緒で良いなら、英語、教えてやるよ。

 そう言うと。

「えーなんで」とでも言いたげな大黒、「別に良いよ?」と笑う咲屋、あからさまに嬉しそうな島、という。そんな結果になった。

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