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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep2.姉妹(キオク)
48/61

2

――…………。

 過去の回想は、一旦このくらいにしておこう。思い出し始めると、長くなる。そうだ、今は現在のことに、集中しなければいけない。

 現在。

 俺は、赤い悪魔と一緒に病院の受付にいる。退院の手続きのためだ。

「では、しばらくお待ちください」

 受付の女性の事務的な指示の下、俺と紅也は待合の椅子に座る。

「いやあ、ようやく退院だねえ……雨夜君?」

 紅也は、座るなり不気味に笑う。俺は若干引いて、距離をとる。

――何、笑ってんだ?

「ん? だって、嬉しいじゃないか。これからは、どんな時間に君を訪ねてたたき起こして嫌がらせをしたとしても怒られないんだよ?」

――おい。お前一体、俺を何だと思ってるんだ?

「やだなあ、親友でしょ? 僕たち」

 ふふ、と微笑む、真っ赤な眼の紅也。

――誰と誰が親友だって言うんだよ……この悪魔めが。

「え? 違ったの?」

 くくく、と含み笑いをして、紅也は笑う。

「それにしても、随分治療期間長かったよねえ。もう、夏休み始まっちゃったし」

――ああ、そうだった。夏休み、ねえ……。

「最初、腹部の傷の治療に三週間。そして次、あの両手両足の単純骨折に、一ヵ月半……。君、学校から通告とかこなかったわけ? 絶対単位数足りてないよ?」

――放っとけ。きっと桜見先生がうまくやってくれたさ。

 あの先生なら、どんなことだってやりかねないしな。

 少し寒気を覚えながら、俺は紅也に答えた。紅也はふうん、と首をかしげ、まあ良いんだけど、と呟いた。

「それで、新事実あらた ことみ君は君の先を越して、退院しちゃったわけね」

――うん。アラタ君は、雪花ちゃんと一緒におばあさんと暮らすことにしたってさ。

「へえ」

 そう、俺と同じ病室に入院していた、アラタコトミ君。彼は、怪我の種類から言ってもまあ当たり前ではあるが、俺より傷の治りが早く、一ヶ月前に退院してしまった。

『いろいろと、有難う御座いました。これからは、祖母と雪花との三人で暮らしていきたいと思っています。その方が、雪花も寂しくないと思うので』

 そう言って、アラタ君は雪花の頭を撫でてやっていた。

 二人とも、幸せそうだった。

 少なくとも、見た感じでは。

 でも――……。

 見た感じだけでも、十分だろう。彼らは多分、これからずっと、自らの罪の重さを背負って、生きていくのだろうから。外見だけでも幸せそうに見えるのなら……、それは多分、良いことだろうから。

「で、君は結局……みちるさんのコトは何も話さなかったわけか」

――ん、ああ。わざわざ話すことでもないさ。

「ま、そうかもね。それで……、君、これからどうするの?」

 紅也の赤い眼が、俺の眼を覗き込む。人形のように真っ白で整った顔は、意地悪そうに微笑んでいる。

――あ? 何が。

「妹さんのことと、咲屋灰良――……彼女の、コト」

――んー……。

 正直言って、何をどうするかなどと、決めてはいなかった。妹については論外だし――……俺がこの病院に入院する原因の原因、咲屋灰良についても、全くといって良いほど、考えていなかった。はっきり言って、興味がない。

「ふん。興味がないのはいつものコトでしょ。……復讐しろとは言わないけれど、気になったりはしないの?」

――しない。

「……やっぱりねぇ。『病気』だもんね、仕方ないか」

 紅也は、ふ、と息を吐いた。

「ところで」

――ん?

「夏休み中、何か予定はあるかな?」

――いや……、特にない。

 ふむ、と。紅也は口元に手を当てて、何かを考える素振りをした。しかし、それが本当に『素振り』でしかないことは明白である。紅也に俺の意見は通用しないし、それより何より、こいつは何かを考えてからでないと話をしない。

「それじゃあさ」

 紅也はにこやかに。

「通り魔退治でも、するとしようか」

 俺に意見を聞く気などさらさらなく。命令のように、高らかに。

 そう、宣言した。

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