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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep1.病院と兄妹
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「それじゃあ、今日からまた、一般病棟に移ってもらいますねー」

「はい」

 個室病棟で二週間を過ごし、僕はまた、以前入院していた病棟に移ることになった。以前はあそこで、更衣さんと一緒だった。もっとも、今では彼はもう、とっくに退院してしまっているだろうが。

――時々、思うんだよな。もしあいつがいなかったら、俺は今まで、どうやって生きてきただろうって――

――あいつがいない俺の人生ってのがもしあって……。俺が、どちらかを自由に選べるんだとしたら、――

――多分、迷ったりはしないだろう、と思うんだ――

 更衣さんの、あの言葉。

 その意味が、やっと分かったような気がする。

「はい。じゃあ荷物はあとでこっちに持ってきますからね」

「あ、はい。どうも」

 看護師さんが、僕のベッドを整えて、出て行った。……それにしても、何かが物足りないな……なんだろう。

 ああ、そうだ。

 香りが、足りない。

 みちるさんが、いない?

 何で、急に。あ、いや急でもないか。あれから二週間以上経っているわけだし。みちるさんが辞めてしまったのだって、何か理由があったのに違いない。

 うん、きっとそうだ。

 前向きに考え、僕はベッドから立ち上がる。まずは、隣のベッドの住人への挨拶だ。

「あのー……、ちょっと良いですか」

 軽く仕切りのカーテンを揺らして聞くと、はい、という答えが返ってきた。……ん?

「今の、声……」

 ひょっとして。

 いや、いやいや――……違うだろう。

 一人で首を振り、僕はカーテンを開けた。丁度窓際の場所だったため、一瞬眩しくて、目が眩む。

「…………」

 目はすぐに、明るさになれて。

 そこにいたのは、やっぱり。

「更衣さん!」

――……アラタ、君……。

「って、どうしたんですか、その足! 腕も……! 前より酷いじゃないですか! 何やったんです?」

 更衣さんは苦笑いをして、視線をそらした。

――いや、ちょっと。階段から、足を滑らせてね。

「んなベタな……」

 どこからどう見ても嘘なのに、堂々としている更衣さんに、僕は思わず吹き出す。

――なっ……。笑うなって。

「いやその、すいません。でも……その……、格好が……」

――だから、笑うなって……。

 足は両方吊られて包帯でぐるぐる巻かれているし、腕だって、左だけが吊られている痛々しい姿。それなのに更衣さんは、そんな自分の姿に何の興味もなさそうに、残った右手で文庫本を開いているのだ。これが笑わずにいられようか。

――まったく……紅也も同じように笑ってたし……。なんだってこれだけのことで笑えるんだか……。

 ふん、と更衣さんは考え込み。

 僕は、しばらくそのまま笑い続けた。

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