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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep1.病院と兄妹
33/61

4-6

 雪花は、アラタ君の傍にしゃがみこんで、彼が弱っていく様をじっと見つめている。アラタ君はもう、意識がもちそうにない。こういう時、俺は一体どうしたら――。

 そんなことを考えて、とにかくアラタ君の傍に行こうとした――

 そのときに。

 くくく、と。笑う声が、聞こえた。俺たちの背後……公園の入り口から。

――誰だ?

 俺は振り返る。予測不可能だったわけではない。予想していなかったわけでもない。きっと――……来るだろうと思っていた。

 紅也がそこに、立っていた。

 黒い髪は周囲の闇に紛れていて。

 乏しい光りに照らされた真っ白な顔には、いつもどおり薄笑いを浮かべていて。

 烏の羽のような、真っ黒のコートを(夏だというのに)着ている。

 そして。

 いつもの通り、その真っ赤な瞳で、俺たちを捉えていた。

――……紅也! お前、来るなら来るで、もっと早く……。

「あー雨夜君……。ご免ね。いや、そうしたいのは山々だったんだけれども」

 こっちにもいろいろとすることがあってね、と紅也は大げさに肩をすくめて見せた。

「それより。……雪花ちゃん?」

 紅也は、目線を俺から雪花に移す。雪花は紅也の登場に、さして驚いた風もなく、何ですか、と答えた。

「君、間違ってるよ」

「はい?」

 紅也の断定的な口調に、雪花は首をかしげる。

「いや。……間違っているというのは、正しくないかもしれないけどね。正確に言うならば、……君の言う『白い男』が、君に間違った記憶や情報を植えつけたんだよ」

「……何を言っているのか、よく分かりません」

 そう言う雪花は、先ほどまでアラタ君に向けていた冷たい視線を、紅也に向ける。……って、ちょっと待てよ。

 今紅也は、『君の言う』『白い男』って言ったよな。

 こいつ、一体いつから……どこから、聞いてたんだ?

「ん? ああ、だから言ったでしょ、僕は悪魔だって」

 俺の視線に気がついたのか、はたまた心を読んだのか。紅也は若干面倒くさそうにそう言った。そうか……悪魔。悪魔、ねえ……。

「さて。話を戻すよ、雪花ちゃん。ええっと。君が言う『白い男』の外見的特長は、全身真っ白で、髪と目だけが黒い男……で、良いんだね? それと、君に向かって発した言葉は、合計四つ、……それも、合ってるね?」

「ええ。……それが、何か?」

 相変わらず睨み付けるような雪花の視線に、紅也はにこりと笑って見せた。

「ううん、ちょっと確かめたかっただけ。話を続けよう。『白い男』が君に会ったとき。……君は何を、考えてた?」

「私……が? どうしてそんなこと」

「いいから。思い出してみてよ……」

 やんわりと促す紅也の言葉に、雪花はううん、と眉をひそめた。

 そしてそのまま、硬直した――ように見えた。

「さて。そろそろ思い出したかな?」

「…………」

「雪花ちゃん?」

「…………」

 何かに気付いたかのような表情のまま沈黙する雪花に、紅也は歩み寄り――……二、三歩手前で立ち止まる。

「雪花ちゃん? ……思い、出せた?」

 笑顔のまま。

 人形のように整った、美しいとしか言いようの無い、その笑顔のまま。

 紅也は、雪花に問う。

「私……私は、……あのとき……」

「あの時?」

「あの……時、私は――?」

「ん? どうしたのかな」

「私……私はっ……!」

 雪花は、いやだというように、首を振る。

「私は、私はあの時……」

 頭を両手で挟むように押さえ、涙を流しながら。

 アラタ君の傍に――紅也の前に、しゃがみこんでしまった。何かを怖がるかのように。何かから身を守ろうとするかのように。

 でも、見ているだけの俺からすると、正直何がどうなっているのか、さっぱりだ。

「私は……あの時……、何を考えていたの……? いや、……どうして? 思い出せないっ……」

「ふぅん……。それじゃあ、もう一つ聞くよ。……君は、それ以前の、自分の記憶といえるものを、もっているかな?」

 紅也は極めて冷静に、雪花を見下ろす。雪花が首を、横に振る。

「……やっぱりね」

 言って。

 紅也はまた、くく、と笑った。

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