表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep1.病院と兄妹
32/61

4-5

 嘘だ。

 嘘だ。

 嘘だ。

 嘘に決まってる。

 雪花が僕を殺すだなんて。

 僕が両親を殺しただなんて。

 この僕が、雪花の、本当の兄じゃないなんて。

 僕が死ねば、元の僕に戻るだなんて。

 嘘だ、嘘に決まってる。

 嘘じゃないんなら……、今までの日々は、何だったんだろう? 雪花との、楽しかった生活は? あの笑顔は? あの心配そうな眼差しは?

 あの雪花は……どこに?

 どこに行った、どこにいた? 確かに、昨日まで存在していた現実。それが――……こんなに容易く破られるものだったとは。

 僕が両親を殺した、と雪花は言った。そうなのか? 僕は……殺人者なのか?

『自分で自分の記憶を――……』

 そうなのか?

 僕は、僕は、僕は、僕は、僕は、僕は……

 僕は、

 何なんだ?

 誰なんだ?

 雪花の兄なのか? そうじゃないのか?

 本当に、僕は――……

 新 事実なのか?

 僕は一体……。

「ねえ『悪い』お兄ちゃん、いい事教えてあげようか」

 雪花の声が、ぶれて聞こえる。もう、眼が上手く開かない。感覚が、マヒし始めている。

「あのねえ、お兄ちゃんのアルバイト先で、女の人たちが連続で行方不明になった事件が、あったでしょう?」

 ああ、そういえばそんなこともあったな……。

「お兄ちゃんなんだよ、その女の人たちを殺して山に埋めちゃったの」

 …………。

「まだ、あるんだよ。あのねぇ――……」

 昨日の夜、死んでいた二人も。

「お兄ちゃんが、殺したの」

 …………。

「あれ、聞こえてないの? もしかして、もう死んじゃった? あはは、だったらもうそろそろ優しいお兄ちゃんになって生き返るはずだね。雪花、楽しみだなぁ」

 雪花の声が、耳元で響く。脳内に散らばる言葉の欠片を、僕は拾い集めて、抱きしめる。

「う……せ……つ、か」

「なんだ、生きてたの。しぶといなぁ。……それじゃあお兄ちゃんの正体も、ついでに教えてあげるよ」

「ぼ……くの、正体……?」

「そう」

 あのね、と。

 雪花は内緒話でもするように、僕の耳元で声を顰めて言った。

「お兄ちゃんはね、『元の』お兄ちゃんの中にあった、殺人衝動の集まった人格なの」

 つまり。

「殺人鬼。だから、あなたを殺せば、『元の』お兄ちゃんが戻ってくるの。ねえ、思い出してみて? アルバイト先の女の人たち、いつかあなたに何か悪口を言っていたでしょう。桜坂花弁看護師には、淡い憧れを抱いていたでしょう。いつも遠くから見ることしかできないあなたは、彼女に対する支配欲を募らせていた……。彼女と一緒に殺された宇押君は、ただの巻き添え。……あるいは、いつも桜坂看護師と一緒にいたあの子に、嫉妬を抱いたのか……。なんにせよ。思い当たる節は、……あるでしょう?」

 …………。

「ねえ、だからあなたはお兄ちゃんの体から出て行くべきなの。殺人鬼は、お兄ちゃんの中には、要らないの。だから」

 早く死んで? と。

 雪花は、僕にそう言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ