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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep1.病院と兄妹
29/61

4-2

――アラタ君、避けろ!

「…………っえ?」

 急に更衣さんが怒鳴り、僕はそれに驚いて一歩、後ずさる。その直後。

 びゅん、と。

 僕が今まで立っていた場所を――空間を、切り裂くような音が聞こえ。

 銀色の、硬質なきらめきが、目に映った。

「ぇ」

 びゅん。

――……! アラタ君、逃げろ!

「え。え。えっ……」

――くそっ……。

 更衣さんは僕に駆け寄り、その勢いのまま僕の手を掴み、街灯の無い方へと走る。ものすごい速さだった。

「あ、あの……っ、更衣さん?」

――ナイフだよっ! 分かんなかったか? アラタ君、狙われてたんだぞ!

「え、えっ……? 僕がですか?」

――だってほら、後ろからまだ追いかけてくるの、聞こえんだろっ。

「…………」

 確かに、後ろの方からは、たたた、と走って追いかけてくる足音が。

「ナ、ナイフ通り魔……でしょうか?」

――分かんねー……。だって、……通り魔って、こんなにしつこいもんか?

「さ、さあ……」

 そのうちに街灯の光は届かなくなり、僕と更衣さんは闇の中を手探り状態で走り続ける。目が慣れるのを待つ余裕もない。足音はまだ、僕らを追いかけてきている。公園は案外広かったが、行き着いた先が悪かった。野球用につくられたスペースの、フェンスが張り巡らされた隅に、僕らはいつのまにか追い詰められていた。

――ちっ……。方向が悪かったか……。

 更衣さんは急いでフェンス沿いに走り、回り込もうとする。僕もそれに続くが、一歩踏み込んだ時に、何かが聞こえ、足を止めた。

「あの、更衣さん――」

――なんだよっ! 立ち止まってないで、早く――。

「何か、聞こえませんでしたか?」

「…………ちゃん!」

「声……!」

――あ、ああ……俺にも聞こえた。

 更衣さんは戸惑ったように立ち止まる。そのとき、さっきよりも更にはっきりと、声が聞こえた。

「お兄ちゃん!」

「……雪花っ?」

 雪花の声だ。街灯があった方向から、聞こえてきた。

 雪花……、雪花、なのか?

「更衣さん、……通り魔、まだここに追いついてこないって、……おかしく、ないですか?」

――……! まさか、雪花……が……。

 更衣さんは、何かに思い当たったように口元に手をやる。

「お兄ちゃん、助けて……!」

 雪花の、切羽詰った声が、僕に助けを求めている。ナイフ通り魔は何故、僕と更衣さんを追いかけて来なくなったのか? それは――。

「標的を、変えたんだ……!」

 言いながら、僕は来た道を走り出す。

――あ……ちょっと待て、アラタ君……!

 後ろから、更衣さんが僕を引きとめようとする声が聞こえたが、待つはずがない。妹が危ない目にあっているというのに。僕に助けを求めているというのに。今にも殺されるかもしれないのに。

 今にも死んでしまうかもしれないというのに。

「雪花っ……!」

 失いたくない……失いたくない。

 失うものか。

 街灯の光が、雪花を照らし出しているのが見えてきた。

「雪花、大丈夫か?」

 どうにか間に合ったらしい。街灯に照らされる小さな雪花の姿には、傷一つ見当たらない。

「通り魔は……?」

 雪花に近付きながら、僕は辺りを見回す。辺りに、人影はない。

「あ……お兄ちゃん」

 うつむいて泣いていた雪花が、顔を上げて僕を見る。

「雪花、もう大丈夫だよ……」

「お兄ちゃん……!」

 雪花は小さな体で、僕に向かって走ってくる。ああ、良かった。雪花が無事で――……。

 雪花は屈んだ僕の胸に飛び込んできた。

「本当に、良かった……雪」

 花、という言葉は、が、という呟きに変わり、虚空を漂った。

「せ、……つ、?」

 雪花はゆっくりと。

 僕を貫いたナイフから手を離し――、くすりと笑った。

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