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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep1.病院と兄妹
23/61

3-13

「お兄ちゃん、さっきのおにーちゃん、友達なの?」

 雪花が、僕を見上げて問う。

「うーん、どうだろう。友達って言って良いのか……。まだ、そんなに話してないし」

「ふうん……。何か、優しそうな人だったね」

「え? そう、……かな……」

 それはどうだろう。優しくないとは思わないが、かといって特別優しい人ってわけでもないような気がするけど。

「でも、……なんか」

 雪花は、ふと表情を曇らせた。

「どうした?」

「あのね。さっきのおにーちゃん、何だかすごく、寂しそうだったな。それに、自分でも気付いていないような――」

「……更衣さんが? 本当に?」

 僕は耳を疑った。あの更衣さんが寂しがりだとは、どうしても思えない。

 特に、あの無感動な、

 目…………。

「目がね」

 雪花が言う。

「目が、何も映してなかった」

「え……と……。何?」

「…………」

 雪花はしばらくの間そのまま黙っていたが、急ににっこりと笑って、なんでもないと首を振った。

「それよりお兄ちゃん。もうそろそろ退院だね」

 まるで、今までの話などしていなかったかのように。雪花は、話題を急に変えた。雪花にしては珍しいが、たまにはあるのだ、こういうことも。

「うん。そうだね」

「お家に帰ったら、おばあちゃんがケーキ作ってくれるって」

「本当? 楽しみだな」

 極々普通の会話。日常的な、会話。

 でも、ココはすでに、非日常の場だった。殺人事件のあった病院……不安と恐怖と疑心の塊のような場所だ。

「早く帰りたいなぁ」

「そうだね、お兄ちゃん」

 本当に、早く家に帰りたい。入院生活も、これだけ長くしていると慣れてしまってはいたが……、昨夜のことで、本当に参った。

 同じ病院の、同じ階の、年下の子供と看護師が、僕の知らない間に、殺されていたのだ。もう、全く本当に。

 帰って、ゆっくりしたい。

「お兄ちゃん、疲れてる?」

「……ん、ううん。そんなことないよ。心配しない心配しない」

「……うん……」

 雪花は不安げに僕を見た。僕はその頭を撫でてやり、ついでに髪を結びなおした。

「そういえば、雪花?」

「何?」

「この頃、町で通り魔が出没しているんだって。雪花も、気をつけて帰るんだぞ」

「うん。でもお兄ちゃん。テレビも新聞も見てないみたいなのに、どうして知ってるの?」

「更衣さんが言ってた。刑事から聞いたんだって」

「へえー、刑事さんって、テレビドラマとかでよく見るよね。格好良いなぁ」

 雪花はくすくすと笑う。そして、時計を見て、次に僕を見た。

「もうそろそろお昼だから、雪花、帰るね」

「うん。何だったら、ここでお昼食べてってもいいのに」

「ううん、おばあちゃんが造って待っててくれるから。……それじゃあ、また来るね、お兄ちゃん」

「うん。じゃあ、本当に、気をつけて……」

 雪花の小さな後姿は、はねるようにドアの外に消えた。僕はそれを見送ってから、ため息をついて呟く。

「更衣さんが、寂しがり、ねえ……」

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