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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep1.病院と兄妹
22/61

3-12

 みちるさんの背中を追いかけながら俺は、これから始まるであろう、公開処刑のような会話に、思いを馳せていた。

 きっと、話というのは他でもない――。

「話って言うのはね、他でもない、あなたの妹さんのことなの……雨夜君」

 みちるさんは、前を向いたままで言う。……やっぱり、な。

――そうですか。

 とだけ、俺は答えた。みちるさんも肯いて、そうなの、と言った。

「でも、話すのは私じゃない……あなたも分かっているだろうけど」

 院長先生よ、と。

 みちるさんは無感情な……、あえて、というか努力して感情を抑えた声で、そう言った。

――そうですか。

 とだけ、俺は言う。みちるさんはもう肯かず、相槌も、打ってはくれなかった。

「あの娘ね――、桜坂花弁ちゃん、ね……」

 私の友達だったの……、親友だったのよ、と。

 みちるさんは、それだけ、言った。決して、俺のほうを向こうとはせずに。

――そうですか。

 と、俺は。

 ただ、それだけを言った。

――あ、そういえば、みちるさん。

 何? と、みちるさんは歩きながら聞く。先ほどと同じように、全くの無感動な声で。

――刑事から聞いたんですけど、街でナイフ通り魔が出没しているそうですね。

「……ええ、そうみたいね」

 会話はそこで途切れ、俺は歩きながら窓の外を眺める。やはりここからでは、この病院が位置している場所が、全く特定できない。街の全景がある程度見渡せるので、山や高台かと思うのだが、この街には、そんな山はなかったように思う。ならば、この病院のこの階が高いのかと言えば、そんなこともなく。

 一体、ここはドコなのだろう?

「どうしたの? 着いたわよ」

 みちるさんが、振り向く。ようやく、俺を見る。

――ああ……、すいません。

 俺はみちるさんに続いて、院長室の扉をくぐった。

――失礼します……。

 挨拶をし、俺はみちるさんが示してくれた椅子に腰掛け、正面のデスクに座る院長を見上げた。背後で、みちるさんが出て行くのを感じる。一陣の風が俺の髪を揺らし、それからは何も入ってこなくなった。

「さて。はじめまして、かな……更衣、雨夜君」

 院長は低い、落ち着いた穏やかな声で、俺の名を呼ぶ。

 初めて会う人だ。予想していたのより遥かに若々しく、声も明朗としていて、印象が良い。眼鏡をかけていたりするわけではないが、なんとなく、聡明な感じを受ける。声と同じく穏やかな茶色い瞳が、俺を捉えている。

――はじめまして。

 俺が軽く礼をすると、院長先生は微笑んだ。

「私の名前は、まだ聞いてないかな。小波彼亜ささなみ かのあです。よろしく」

――よろしくお願いします。

 頭を下げながら、俺は考える。小波……小波医院、か?

「さて、と。君をここに呼んだのは、他でもない、今回の殺人事件についてなんだ」

――はい。

「それで、刑事さんたちは全く考慮していなかったみたいなんだが――……」

 君の妹さんがやってしまったんじゃないかと。

「僕は、思ってしまったんだ。いや、そう思えて、ならなかった」

 院長は、目線を俺から机に移して、話を続ける。

「前に……二年前、君が発見した、あの事件……君が、両親を失ったあの事件も、……君の妹さんがやったね」

――…………。

 はっきりした事実は未だ闇の中であるが、他人から見れば妹が両親を殺したように見えるのも当然だ。俺は肯くことはせず、ただ黙って、院長の話を聞く。

「今回も、切り刻まれて、男の子と看護師が殺された……。私はね、怖いんだよ。いくら『あの子』に、厳重な牢を与えたとしても。『あの子』はそれを抜けて、殺人を行うのではないか。どんなに警戒しても、どんなに注意を払っても。どんなに考慮しても、どんなに配慮しても。どんなに心配しても、どんなに気をつけていても……。『あの子』はまるでそのために存在しているかのように、人を殺し続ける」

――…………。

「……なんてね。はは……、馬鹿みたいだろう? あんなに厳重に、あんなに慎重に、扱っているというのに。それでも『あの子』のことを、こんなに怖がるなんて。

――…………。

「でもね。単純に恐怖なんだ。怖いんだよ、更衣君」

 院長は、俺の目を見つめた。

「明日にでも自分が殺されるのではないか、という恐怖を、抱いたことがあるかい?」

――…………。

 その目の中には、嫌になる位無表情な、俺の顔が映っていた。

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