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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep1.病院と兄妹
12/61

3-2

「お兄ちゃん、――」

 ふと。

 妹の声がしたような気がして、目が覚めた。

――……。

 辺りを見回すが、妹の姿などない。当たり前だ。妹は今、俺と同じように何処かの病院のベッドで、眠っているはずなのだ。

「お兄ちゃん、早く良くなって」

 女の子の声は、俺の隣のベッドのほうから聞こえてきた。確か、隣には高校二年生の男の子が、入院していたはずだ。足を折ったか何かで入院しているのだと、聞いたような気がする。ということは、……その男の子の、妹か。

「大丈夫だよ。お医者さんも、あと二週間で退院できるって言ってたし」

 男の子の声が答える。

「でも――」

「大丈夫だって。心配性だな、セツカは」

 セツカ……、か。妹の、名前……。

「うん……」

 まだ少し心配げな妹――セツカ――の声に、兄は笑う。穏やかな関係。ほほえましく、……うらやましい。

 うらやましい?

 いや。

 俺は、本当は、うらやましくなんかないんだ。『病気』である俺が、他人に……他人と他人の関係に、何らかの感情を抱くことなど、ありえない。『うらやましい』という言葉は、俺にとっては本当に、唯のコトバでしか、ないのだから。

 だから、この感覚は、恐らく。

「錯覚だよ」

 歌うような声が、頭上で聞こえた。目で確かめなくとも分かる。紅也だ。

「君の自己分析は、なかなか面白いね。感情を抱けないから『病気』だ、というんでなく――」

 ふふ、と笑う紅也。

「『病気』だから、この感情はおかしい、と考えるなんてね」

 何がおかしいのか。

 俺か……?

「ああ、御免。僕、意味もなく笑うから。笑い上戸なんだ」

――あ、そ。で、紅也。今日は何の用だよ?

「うわあ、ひどいなあ。友達がせっかく見舞いに来たっていうのに」

 オーバーなリアクションで、紅也は嘆く。もう個室ではないので、トーンはやや低めだが。

――見舞い、ねえ……。

 疑わしげな目で紅也を見ると、紅也はまた笑いながら、座ることもせず、

「今日は面白いニュースを持ってきたんだ」

――……ニュース?

「うん。今日まで言い忘れてたことなんだけど」

――なんだよ? 紅也がそこまで言うなんて……。

「凄いことだよ、ふふふ……」

 おいおい。

 ふふふ、って何だよ。

「じゃあ発表します」

 こほん、と咳払いをして。

 紅也は、その赤い瞳で俺を見下ろして。

「妹さんが、この病院に入院してるよ」

 そう、言った。

――…………。

 ………………。

――え。

 出てきたのは、そんな間抜けな一言。紅也はそれを聞いて吹き出した。

「……くっ。何、それ。君は本当に、おかしいねえ」

――いや、それどころじゃねえし。紅也、……それ本当か。

 もちろん、と紅也は肯く。

 嘘だろ、と俺は呟く。

「病室、聞きたい?」

――……念のため。

「444号室」

――うえ。縁起悪。……病院にそんな病室、普通ないだろ。

「それがあるんだね。なんでも、妹さん以外はそこに入った人はいないらしいね」

――なんだ、それ。つまり……、特別室みたいなもんか?

「そうだよ。まあ、詳しい話はまた後で」

 言いながら、紅也は目で隣の兄妹を示す。俺も軽く肯いて、ため息をつく。

「君のために新しい本を持ってきたんだ。」

――あ?

 紅也が差し出したモノは、真っ赤な表紙の、本だった。

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