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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep1.病院と兄妹
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 お兄さんが、消えてしまったんだね?

 その男は言った。全身白尽くめで、髪と目だけが黒い男。白いスーツに、白い背広。切れ長の目元に、薄い唇。唇の色も、薄い。その青白い唇は、笑みの形に歪んでいる。――が、細められた目に、その気配はない。

 背筋に寒気を覚えたけれど、私は震えた声で答える。

「はい」、と。

 白い男は、口を益々横に動かす。――笑っているのか、そうでないのか。

 白い唇の間から、真っ赤な口腔がのぞく。怖気が立つ。気持ち悪い、この男。

 本当に、人間なんだろうか。

 君は――

 男は、その口から不似合いな優しい声を出す。その落差に、私は一瞬身構える。

 君は、――お兄さんを取り戻したいのかな?

「はい?」

 思わず、聞き返していた。

 お兄さんだよ。君の、優しかった、お兄さん。いなくなってしまったんだろう?

「…………」

 兄。

 兄を取り戻したいか、と男は聞いた。なんと答えるべきか――私は。

 迷わなかった。いや、迷いようがなかった。答えなど、一つしかありはしない。

 私は。

「兄を、取り戻したいです」

 白い男は、にやりと笑う。そして、その手を。

 私に向かって、差し出した。

 私がその手を握り返すと。男は私の耳元に顔を近づけて。

 甘く、麻薬のように蠱惑的な。

 言葉を、ささやいた。

――――。

「私と一緒に、来なさい」

 と。



――なあ、紅也。

 俺は、見舞いとして病院まで来て、俺の傍に座っている紅也に、声を掛けた。

「何?」

 窓の外を見ながら。俺には一瞥もくれず、紅也は返事をする。

――お前、どうして俺にしたんだ?

「何が?」

――いや、だから……契約、とか。

「前にも言ったでしょ。似てたから」

 そっけなく答えて、紅也はまたすぐ黙ってしまった。

――なあ。

「ん?」

――お前、前に人間に騙されて、魂をとられた、って言ってたよな。

「うん、言ったよ」

――悪魔って、魂とられるのか?

「とられるよ」

――…………。

「何? 気になる?」

 窓を見ていた眼をついと逸らして、紅也は横目で俺を見る。口元が、少し笑っている。

――いや、……気になる、っていうか……。

 言葉に詰まる俺を見て、紅也は笑う。

「もしかして、自分だけ妹さんの事件について話すのは不公平だとか思った?」

――そういうわけじゃ……。

「まったく、そんな、世の中全てギブアンドテイクって訳にはいかないよ。だから、ま、この話はお預けね」

――……あ、そう。

「うん」

 紅也はまた、窓の外を眺める。

――何か見えんのか。

「うん、色々とね」

――ふうん。

 窓の外は快晴の青空。梅雨は終わり、もう夏が始まる。紅也が窓の外に何を見ているのか、ベッドの上の俺には分からない。悪魔の目に、何が映っているのか、写っているのか。俺には分かるはずもない。でも、そこに何かがあることは、確かなのだろう、と思う。

 まあ良いか。

 気を取り直して。

 俺はまた、何度も読み返して筋を覚えてしまった本を、広げた。

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