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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題)  作者: tei
ep1.病院と兄妹
10/61

2-2

――紅也?

 俺が少々疑問型で問いかけると、紅也は、今初めて俺に気がついたとでも言うように俺を見、首を傾げた。

「何かな? 更衣君」

――いや……。

 俺は、その大きな赤い瞳から視線を逸らして、

――何やってんの? 紅也。

「ん?」

 紅也は、今まで動かし続けていた手を休めた。その白く細く長い指下にあるのは真っ白な紙。十枚ほどあるだろうか。それを紅也は、一つ一つ丁寧に、折りたたんでいる最中だった。

「まあ、ちょっとね」

 そう言って、真っ白な花を思わせる微笑を浮かべる紅也。

 ――時間は放課後、場所は教室。桜見先生により意図的につくられた密室空間に、俺と紅也の二人きり。そして俺は意を決して自分から話しかけた、というわけだ。

 だが、紅也は俺以外に誰の影も見当たらないという一種異常な空間に、何の疑問も感じていないようだった。俺のことなど眼中にないといった様子で、ただその白い紙を単調に折りたたみ続けているのだった。

 こいつ……本当に俺と友達になりたいなんて言ったんだろうか?

 そんなコトを思っていたら、不意に紅也がくく、と笑った。何だよ、と俺が聞くと。

 紅也は。

「言ったよ。先生に。君と友達になりたい、って」

――……!

 いつの間にか口にでも出していただろうか。

 俺が紅也をまじまじと見つめると、紅也は笑みを浮かべたまま、

「君、『病気』でしょう?」

 そう言った。

「人に興味を持てない、そういう『病気』。隠して、普通に暮らしてるけど――」

 黙ったままの俺に、紅也は。

「僕には分かるんだ。――同じだからね」

 と。

 真っ赤な瞳で、そう言った。

――……同じってどういうコトだよ? もしかして――

「いや、僕は『病気』じゃないよ。でも、君と同じ場所に属している」

 ひやりとした、空気が流れる。俺は、何も言えずに黙る。……いや、紅也の言葉を、待っている。

 紅也は、また。

 のどの奥でくっくと笑って、俺を見下すように。あざ笑うように。

 俺を見上げて、言った。

「人に対する興味を忘れた人間ほど、哀しいものはないよね」

 嘲るような笑みを浮かべながら。

「だってさ、人間が他の人間に対して抱くべき当然の感情を持てないってことはさ――」

 もったいぶって、紅也は言う。

「その人間は、どこまでも、本当に、真の意味で――」

 その真っ赤な唇を、片方だけ吊り上げて。

「コドクって、ことだものね」

 俺を見下して。心の底から馬鹿にして。

 葉暮紅也は、そう言った。

――…………。

「あ、怒っちゃった? 御免ね。でも、僕が本当に言いたかったのは」

 言いたかったのは。

「そのコドクを、僕なら治せるよ、ってコト」

――…………。

 夕日が差して。教室は真っ赤に染まり。その中でも一際輝くルビー色の瞳が。

 俺を、見つめていた。

 そして。

 紅也は口を開いた。

「――――君、僕と取引しない?」

 と。


 教室は夕陽で血の色に染まり。

 紅也はゆっくりと俺から離れた。

――…………。

 口の中に残る、血の味。これは、どちらの血だろう。俺の血か、それとも紅也のか。

――今のが、『契約』か。

 唇をぬぐいながらそう聞くと、紅也は肯いた。

「まあね。悪魔である僕の血を、人間が飲む……それで、契約は果たされる」

――じゃあ、これはお前の血か。

「うん」

 紅也は微笑んで、机に寄りかかる。

「さ、ぐっといっちゃってよ。そんな厭そうな顔しないでさ」

――…………。

 俺は黙って咽喉を鳴らし、口の中の味を飲み下す。

――まじい。

「失礼だな、雨夜君は。普通の血だよ」

 口調とは裏腹に、紅也はまったく怒っていないようだ。

 そして。

 赤い悪魔は、眼を細めて。心底楽しそうに、心底腹立たしそうに。

 どこまでも狡猾で、どこまでも善良な。

 真っ赤な微笑を、浮かべた。

「では、取引はこれで終わりです。……帰ろうか、更衣君」

 いつもの葉暮紅也に戻って。

 赤い悪魔は、そう言った。

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