第6話 闇より来た観察者
夜の空に、鈴の音が途切れた。
世界の時間が、一瞬だけ“止まった”ように静まり返る。
屋根の上で佇む金猫の姿を見つめながら、鋼牙は息を呑んだ。
「……封印の鈴が鳴り止むなど……ありえない……」
風が止み、代わりに聞こえたのは、奇妙な“拍手”の音。
――パチ……パチ……パチ……。
音のした方を見ると、街灯の影の中から、一人の男が歩み出てきた。
黒いコートを翻し、顔の下半分を覆う仮面。
その背中からは、まるで糸のような黒い煙が立ち上っている。
「やはり……封印の器は生きていたか。
修羅院の“金猫”。 そして、もう一人の“鍵”――鋼牙」
その声には、感情というものがなかった。
ただ観察し、記録する者のような冷たさ。
鋼牙は一歩前に出る。
「……お前は、誰だ」
「名などどうでもいい。だが、昔は“観察者”と呼ばれていた。
我々は、封印が“破られる日”をずっと待っていたのだよ」
観察者が手をかざすと、周囲の空気が黒く揺らぎ、
影の中から異形の獣が這い出してきた。
その姿は、猫に似て、しかし人の顔をしている。
「これは……修羅の獣……!」
鋼牙が呟いた瞬間、金猫の鈴が高く鳴り響いた。
――チリンッ!
鈴の音に反応し、獣が一斉に金猫へと襲いかかる。
しかし金猫の周囲を黄金の光が包み、影を焼き払っていく。
観察者は愉快そうに笑った。
「やはり、君の中に“修羅の力”はまだ眠っている。
その力こそ、この世界の均衡を壊す鍵だ」
金猫の瞳が揺れる。
封印の鈴が、勝手に鳴り続ける。
> 『外せ。外せば――真の“私”が現れる』
頭の奥に、もう一人の自分の声が響く。
苦しみながら金猫は叫んだ。
「いやっ……私は……! 外したら、あなたに“なる”!」
観察者は冷たく笑う。
「その通りだ。だが、それこそが我々の望みだ、金猫。
修羅院の血よ、再び“門”を開け」
風が荒れ、月が朱に染まり始めた。
封印が、再び動き出す――。




