第5話 封印が外れる夜
その夜。
金猫は、月光の差し込む部屋の中で目を覚ました。
――チリン……。
鈴が、静寂の中で勝手に鳴っている。
寝返りを打とうとした瞬間、首元が熱を帯び、鈴が淡く輝き始めた。
「……どうして……勝手に鳴って……?」
金猫は首輪に触れようとした。
しかし、指先が触れた瞬間――
脳裏に“誰かの声”が響いた。
> 『外してはいけない。外せば、お前はお前でなくなる。』
お父様の声。
けれど、それに重なるように、もう一つの声が囁いた。
> 『外しなさい。思い出して。私は……“あなた”なのだから。』
鈴がひとりでに揺れる。
髪がふわりと浮かび上がり、金猫の瞳が金色に染まり始めた。
「……あなたは、誰……?」
鏡を見ると、そこにはもう一人の“自分”が映っていた。
同じ顔、同じ髪。
ただし、その瞳は鋭い猫のような光を放ち、首輪をつけていない。
> 『私は“金猫”のもう一つの側。封じられた“修羅の魂”。』
部屋の空気が凍りつく。
鈴が高く鳴り、窓ガラスがひび割れる。
外の夜空が歪み、黒い影のようなものが這い出してきた。
「っ……な、に……あれ……」
> 『封印が……解け始めたのよ。私たちの“過去”が戻る』
その瞬間、金猫の意識が真っ白に弾けた。
*
同じ頃、鋼牙は夢の中で異様な気配を感じ取り、飛び起きた。
首にかけた黒鉄のリングが灼けるように熱を帯びる。
「……金猫……封印が……!」
彼は夜の街を駆け抜けた。
月明かりの下、彼の瞳もまた琥珀から紅に変わり始めていた。
屋根の上、遠くに立つ金猫の姿が見える。
風に髪が舞い、鈴の音が闇を切り裂く。
――チリン。
その音に呼応するように、彼女の背後で異形の影が形を成した。
猫のような耳、黄金の尾、そして……涙のように光る瞳。
「……“もう一人の私”が、目を覚ます……」
風がうねり、世界が軋む音がした。
そして――封印の夜が、始まった。




