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第4話 もう一人の修羅院



翌朝の教室。

ざわめくクラスの空気の中、金猫はいつものように静かに席についた。

昨日の出来事など何もなかったかのように、穏やかな笑みを浮かべている。


だが――教室の扉が開いた瞬間、

金猫の表情がほんのわずかに、固まった。


「今日からこのクラスに転入することになった、修羅院しゅらいん 鋼牙こうがだ。よろしく頼む」


担任の声に合わせて、一人の少年が入ってくる。

漆黒の髪、琥珀色の瞳。

制服の胸元には、金猫の鈴とよく似た、黒鉄のリングが揺れていた。


――チリン……。

金猫の首輪が微かに鳴る。

同時に、鋼牙の首のリングも応えるように低く共鳴した。


誰も気づかぬほどの一瞬。

しかし、その波動は確かに二人の間で交わされた。


「……しゅ、修羅院くんって……金猫ちゃんと同じ名字?」

ほのかが驚いたように声をあげる。


金猫は小さく頷き、微笑んだ。

「ええ。ですが……彼とは、はじめまして、ですわ」

その言葉に、ほんの一瞬だけ影が差す。


――嘘。

鋼牙の瞳がそう語っていた。



昼休み。屋上。

二人きりになった瞬間、鋼牙は静かに言った。


「……相変わらずだな、金猫。

 “封印”の鈴をつけたまま、人の中で暮らすとは」


金猫の表情から笑みが消える。

風が髪を揺らし、鈴がまたひとつ鳴った。


「……なぜ、ここに?」

「お父様の命だ。

 お前の“記憶”が戻りかけている。

 それが完全に開けば、この世界そのものが――」


鋼牙の言葉は、鈴の音にかき消された。

金猫の瞳が再び金色に光り、

その奥に“もうひとりの金猫”がうっすらと映り込む。


「……もう、止められないのね。封印が」


屋上の風がざわめき、世界がわずかに歪む。

その瞬間、彼女の脳裏に焼きつく――

血に染まった修羅院の光景。

崩れ落ちる仲間たち、そして「お父様」の叫び。


“――この子を外の世界へ。封印を解かぬように。”


金猫は胸元を押さえ、苦しげに息を吐いた。

鋼牙が手を伸ばすも、金猫は小さく首を振る。


「……私は、まだ思い出したくありませんの。

 だって、思い出したら……あの鈴の意味を、知ってしまうから」


――チリン。


遠く、鐘のような音が山に響いた。

それは“修羅院”でしか鳴らぬ、封印の鐘の音だった。




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