第3話 放課後、封じられた鈴の音
放課後の校舎は、ゆっくりと夕陽に包まれていた。
窓から差し込む橙の光が、廊下を金色に染める。
その中を、修羅院金猫の長い髪がふわりと揺れた。
ほのかは、こっそりとその後をつけていた。
理由は自分でも分からない。ただ──あの“鈴の音”が、心の奥に刺さって離れなかったのだ。
金猫は校舎裏へと向かい、誰もいない中庭に立つ。
首輪の鈴を両手で包み込み、静かに目を閉じた。
「……今日も、見守ってくださりありがとうございます。お父様、兄さん、姉さん……」
その声は祈りのように穏やかで、けれどどこか切なさを帯びていた。
次の瞬間――
――チリン……。
鈴がひとりでに鳴り、金猫の周囲に淡い金光が漂い始める。
風もないのに、髪がふわりと宙に浮かび上がった。
「……な、なに……これ……?」
思わず声を漏らすほのか。
金猫がゆっくりと振り向く。
その瞳は、昼間とは違う――猫のように縦に細く光る黄金の瞳。
「……見てしまいましたのね、春宮さん」
その声音は優しいのに、どこか張り詰めていた。
「わ、私……その……」
言葉を失うほのかに、金猫は小さく笑った。
「大丈夫。あなたには、何も悪いことは起きません。
けれど……どうか、今日見たことは“夢”として忘れてくださいませ」
金色の光が強まり、ほのかの視界が真っ白に染まる。
気がつくと彼女は、教室の机に突っ伏していた。
窓の外はすでに夜。
「……夢、だったの?」
けれど――手首のあたりには、金色の細かな猫の毛が一本、残されていた。
――チリン。
遠く、夜風に乗って鈴の音が響く。
その音が“警告”なのか、“呼び声”なのか、まだ誰にも分からない。
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