第2話 鈴の音、覚醒の予兆
授業の始まりを告げるチャイムが鳴る。
窓際で静かにノートを開く修羅院金猫。
その首元の鈴が、ふと風に揺れて小さく鳴った。
――チリン。
ほんのわずかな音だった。
だが、その音を聞いた瞬間、隣の席の女子・春宮ほのかは胸の奥に妙なざわめきを覚える。
まるで、遠い昔に同じ音を聞いたことがあるような。
「……その鈴、どこで買ったの?」
「買ったものではありませんの。……お父様から、いただいたものです」
金猫は微笑みながらそう言い、鈴を指先で軽く撫でた。
その仕草には、どこか“祈り”に似た静けさがあった。
「へぇ~。でも、外したりはしないの?」
「ええ……絶対に、外してはいけないと申しつかっておりますの」
「そんなに大事なものなんだ……?」
「……はい。これは、わたくしの“存在”を保つものですから」
その瞬間、金猫の瞳がほんの一瞬だけ、金色から琥珀色に揺らいだ。
まるで“別の何か”が、彼女の内に潜んでいるかのように。
ほのかは息を呑んだ。
だが次の瞬間には、金猫はいつもの穏やかな笑みを取り戻していた。
――チリン。
また、鈴が鳴る。
その音に合わせて、教室の空気が一瞬だけ、わずかに歪んだ。
それに気づいたのは、彼女たちだけではなかった。
窓の外で、灰色の雲が形を変え、どこか“眼”のような影を落としていた。




