第1話 金猫、転入す。
教室の扉が開く。
春の光が差し込む中、ひとりの少女が静かに歩み入った。
金色のロングヘアーを編み下げにし、その髪先をまるでリボンのように首に巻き付けている。
白い肌に、猫のように澄んだ瞳。
そして、その首には小さな銀の鈴がついた首輪が――。
「絶対に外すな」と、お父様に言い付けられたという首輪。
それはまるで、彼女をこの世界につなぎとめる“契約の印”のようでもあった。
「ええと…自己紹介をお願いします」
担任の先生が促す。
少女は一歩前に出て、軽く頭を下げた。
「はじめまして。修羅院 金猫と申します。田舎育ちでなにもわからないので、よろしくお願いいたします」
にっこりと微笑むその表情に、教室中の視線が吸い寄せられる。
どこか人間離れした気配――
それでも彼女は、あくまで穏やかに席へと向かった。
窓際の一番後ろの席。
その隣の女子が、最初に声をかける。
「ねぇ、その首輪…可愛いアクセサリーだね!」
金猫は一瞬だけ首を傾げた後、柔らかく微笑む。
「……ありがとうございます。でも、これは“飾り”じゃないんですの」
鈴が、かすかに鳴った。
音の奥で、何かが――目を覚ますように震えた。




