1/16
プロローグ案:山寺に託された子
山深く、霧の絶えぬ谷あいに、一つの古寺があった。
その寺は「修めの寺」と呼ばれ、古くから武の鍛錬の場として知られていた。
夜明け前、まだ鐘の音も鳴らぬ静寂の中――寺の門前に、一つの籠が置かれていた。
かすかに赤子の泣き声。
籠の中には、手編みの長いマフラーと、小さなリストバンド。
そして、猫のような首輪。
柔らかな布団の下には、ずっしりとした金塊が隠されていた。
端に挟まれた紙には、震える筆跡でこう書かれていた。
> 「この子をどうかよろしくお願いいたします。
私どもと共にあっては、この子の命まで危ういのです。
この子は“普通の子”として、幸せに暮らしてほしいのです。
この金塊を養育費として……誠に勝手ながら。」
朝霧の中、住職は長い間その手紙を見つめていた。
やがて、深く息を吐き、静かに呟く。
> 「……この寺に預けた、となると――そういうことなのじゃろうな。」
「この子が、独りでも生きていけるようにしてやらねば……。」
霧が鐘楼を包み、一本の鈴の音が山に響く。
それはまるで、運命の胎動を告げるように――。




