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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第二章) 私たちの親友

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(9) すれ違い

 お祭りの一週間前のとある日。

 私がベランダで洗濯物を干していると、リビングの方から声が聞こえた。


「ねえねえラコ、ここってどうすればいいの?」


「ああ、ここはこっちの式をこうして―」


 今日は桐谷さんが家に来て、桜子と一緒に宿題をしている。

 先日の桜子の話を聞いてから、私は桜子と桐谷さんがふたりきりになれる瞬間を敢えて作っている。

 それは、桜子が桐谷さんに私との関係を打ち明ける機会を作るためである。

 桐谷さんと桜子がふたりきりでいるのはなんだか心がモヤモヤするが、今は我慢である。


「私がこれ以上嫉妬する前に、早めに伝えて下さいよ……」


 私は洗濯物をハンガーに掛けながら呟いた。

 家に来た桐谷さんの行動を見ていると、桜子の言う通り、やけに距離が近いように感じた。

 あれはたしかに、桜子が恋心を抱かれているかもと感じてもおかしくはなかった。

 リビングから再びふたりの声が聞こえる。


「ねえラコ、私疲れたー!」


「では、少しだけ休憩するとするか」


「ラコ、久しぶりにギューってして!」


「なっ……!この歳になってハグは恥ずかしいって」


「いいじゃん!いいじゃん!」


 そろそろ行かないと、私の旦那さまが奪われそうだ。

 私は廊下を進み、リビングの扉を開けた。


「桜子さま、また洗濯物にティッシュ入れたままにしていましたか?」


 私がそう言いながら桜子の方を見ると、桜子は桐谷さんに抱き締められる寸前だった。


「しっ、雫!すまないな、入れっぱなしだったみたいだ!」


 そう言って、桜子は桐谷さんを押し戻して私の方に歩いて来た。

 押し戻された桐谷さんは一瞬悲しそうな顔をした後に、私に笑顔を向けて言った。


「雫ちゃん、ラコが迷惑ばっかりかけてごめんね!」


「いえ、これが私の仕事ですので、桐谷さまがお気になさる必要はございません」


「ほら、ラコも雫ちゃんと洗濯物の片付けをしてきなさい!」


「すまないな、渚は少しゆっくりしていてくれ」


 私と桜子はリビングの扉を開け、ベランダの方へと進んでいった。

 リビングから十分離れたところで私は桜子を廊下の壁に押し付け、睨み付けた。

 そして私はリビングの桐谷さんに聞こえないくらいの小声で桜子に言った。


「私がどれだけモヤモヤして過ごしていると思っているんですか?」


「すまない……」


「桜子さまが桐谷さまとイチャイチャしていると胸が張り裂けそうなんですよ」


 私は桜子に抱きついた。

 桜子が私から離れることがないということは信じられるが、それとこれとは話が違う。

 そんなことは関係なく、私は嫉妬してしまう。


「雫、すまない……なかなか勇気がでないんだ」


「桜子さまが親友を大切にしているのは分かりますが、ちゃんと伝えて欲しいものです」


「不安にさせてすまないな、私もそろそろ勇気を出して渚に伝えるよ」


「よろしくお願いしますね、お説教はこれで終わりです」


 私は桜子にそう言って、リビングに戻るように促した。

 別に私も、桐谷さんが桜子と仲良くするのが嫌な訳ではない。

 むしろ桜子をこれまで支えてくれた桐谷さんには感謝しているし、これからも桜子と仲良くして欲しいと思っている。

 もちろん家に遊びに来てもらってもかまわない。

 でも、ふたりにはちゃんと親友としての距離感であって欲しいのだ。

 それが、彼女である私からの願いである。

 私は桜子がリビングに戻っていった扉に耳を当てて、中の様子を探った。


「あっ!ラコお帰り!」


「すまないな、休憩はできたかい?」


「うん、雫ちゃんの入れてくれた紅茶が凄く美味しくて元気が出たよ」


「雫は紅茶やコーヒーを淹れるのが上手いからな」


「いいなー!、私も練習しようかしら!」


「検討してみるといいさ……それより話があるんだ」


 桜子がそこで一度会話を区切り、空気を変えた。

 リビングの静寂がこちらにまで伝わってくる。


「ずっと言えなくてすまない、雫は私の……」


「本当のメイドさんじゃないんでしょ?」


「しっ、知っていたのか!?」


「だって私たちと同い年くらいのメイドさんを正式に雇えるとは考えづらいもの」


「渚は私と雫の関係をなんだと思うんだ?」


「妹さんの居なくなった寂しさを埋めるために、後輩かなんかをこっそり雇ってるんでしょ?」


 扉の向こうから大きな物音が聞こえる。

 私が扉の隙間から覗き見すると、桐谷さんに桜子が押し倒されていた。

 桐谷さんが桜子の耳元で囁く。


「雫ちゃんの代わりに、私がラコのそばにいてあげてもいいのよ?」


「君は……一体何を……」


「これまでだってずっとそばにいたじゃない、どうして私じゃ駄目なの?」


「それは……」


「私は……桜子、あなたのことが好きよ」


 桐谷さんの突然の告白に桜子の動きが止まる。

 桜子の唇に桐谷さんの唇が近づく。

 これ以上はいけない。

 私は出ていって止めなければと腹をくくった。

 その時、桜子が桐谷さんを突き飛ばした。


「えっ……」


 桐谷さんが衝撃に目を白黒させている。


「いつから君はそんなに強引になったんだ」


 桜子が意を決したように息を吸い、桐谷さんに言う。


「私と雫は付き合っている」


 桐谷さんの動きが凍る。


「冗談……よね?」


 桐谷さんが引きっった笑みを浮かべながら桜子に問いかける。

 しかし、桜子はそこで桐谷さんにとどめをさした。


「本当だ、だから渚、君とは付き合えない」


 桜子がそう伝えた数秒後、扉の向こうの重たい静寂を切り裂いて、乾いた音が響いた。

 見ると桐谷さんが桜子の頬を張っていた。


「どうして……どうしてもっと早く言ってくれなかったの……!」


「私は……渚を傷つけてしまうと思って……」


「バカじゃないの?私だって親友に恋人ができたのであれば、悔しいけどちゃんと祝福するわよ!」


 桐谷さんが瞳に涙を溜めなが言う。


「それともラコは、私があなたたちの関係を知ったら離れていく薄情なやつだと思って……信頼していなかったの……?」


「信頼はしていたさ……」


「なら……なんで私が告白するまで黙っていたのよ!せっかく……勇気出したのに……」


 桐谷さんが崩れ落ちる。

 桜子が崩れ落ちる桐谷さんを支えようと手を伸ばす。

 しかし、その手は桐谷さんの手に弾かれた。

 桐谷さんが潤んだ瞳で桜子を睨み付けながら言う。


「触らないで!どうせ私のことが信頼できなかったんでしょ!薄情な女だと思ったんでしょ!」


「そんなことは……」


「もう知らない……!」


 そう言って桐谷さんは玄関から飛び出して行ってしまった。

 リビングが静寂に包まれる。

 私はリビングの重たくなった空気を押して、扉を開けた。


「桜子さま……」


「たしかに、君の言う通りだったよ、雫」


 私が押し黙ってしまうと、桜子は張られて赤くなった頬を押さえながら、涙ながらに言った。


「私が早く伝えなかったがために、渚を傷つけてしまった……」


「すみません、私が嫉妬心で桜子さまを急かしすぎてしまったのも悪かったです」


「いや違う、雫は正しいことを言ってくれていた、全てはもっと早く、勇気を出せなかった私が悪いんだ……」


 私は桜子のそばに寄り、泣き崩れる彼女を支えた。

 私は嫉妬心で桜子を急かしてしまったことを後悔していた。

 その後の長い時間、リビングの重たい静寂の中に桜子の泣き声だけが響いていた。



  ◇◇◇



「私は渚と仲直りしたい」


 ひとしきり泣いた桜子は私の肩に寄りかかり、そう言った。

 私も桜子と桐谷さんの関係が、こんな形で終わりになって欲しくないため、同意した。


「なんとかして仲直りしましょう、私も協力します」


 こうなってしまったのには私が嫉妬心を燃やしてしまったことも理由の一つとしてある。

 だから、なんとしてもふたりを仲直りさせなければいけないと考えたのだ。

 私がそう考えていると、桜子が私の心を読んだかのように私言った。


「あと、何度も言うが雫に責はないよ、これは私が意気地無しだったことが原因なのだからね」


 そして、桜子は私から離れて向き直り、続けて言った。


「それに、私が意気地無しなせいで雫に寂しい思いをさせて傷つけてしまったそれも謝りた……」


「まったくもう!この際、私のことは気にしなくていいんですよ!」


 私は桜子の謝罪の言葉を遮って大きな声を出した。


「もちろん、嫉妬はしましたし、モヤモヤもしましたよ!」


「なら……」


「でも、私は桜子さまの彼女ですよ!私にだけはいくらでも迷惑掛けていいんです!」


 だから―


「謝罪の言葉よりも、助けてってお願いされた方がずっと嬉しいです!」


 私は普段出さないような大声を出して思いを伝えた。

 桜子が驚いて硬直している間に私はさらに畳み掛ける。


「それに約束したじゃないですか!問題にぶつかったときは、お互いに協力してなんとかするって、今がそのときですよ!」


 桜子の瞳に涙が浮かぶ。


「もう!泣かなくていいんですよ!」


 私はそう言って、目の前の桜子の頭を胸に抱きしめた。

 身長差があるため、ペタンと座り込んだ桜子の頭を胸に抱くためには、私は膝立ちにならなければならなかった。

 なんか上から見下ろす桜子さま可愛いな……。

 桜子は私のことをいつもこんな視点から見ているのだろうか。

 身長高いの羨ましいな……。

 私がそんな緊張感のないことを考えていると胸の中の桜子が私を見上げて言った。


「ありがとう……雫、こんな私をどうか助けてくれ」


「はい、もちろんです」


 私がそう言うと、胸の中の桜子が立ち上がった。

 私が桜子の動きに追従して立ち上がると、桜子が私の頭を胸に抱き締めた。


「やはり、こちらの方が落ち着くな」


「私もこっちの方が居心地がいいです」


 でも―


「身長高いのは羨ましいです……」


「雫もまだまだこれから伸びるさ!でも、伸び過ぎるとこうできなくなってしまって寂しいから、私よりは低くあって欲しいな」


 このような下らない会話をしているうちに桜子の表情はみるみる明るさを取り戻していった。

 やはり桜子は笑顔が良く似合う。


「元気が出たみたいで良かったです」


「ありがとう、雫のおかげだ」


 そう言った後、桜子が私を抱き締めながら、もじもじしだした。


「雫、あっ……あい……」


「あい?何ですか?」


「この間のアイスがまだあったな!食べよう!」


「やっぱり意気地無しじゃないですか!」


 リビングに充満していた重たい空気は、私の大声量のツッコミで完全に取り払われたのだった。

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