表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第二章) 私たちの親友

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/42

(7) ライバル

 私と桜子が出会ってから二ヶ月の月日が経ち、玄関の日めくりカレンダーは七月のラストスパートを告げていた。

 梅雨が明けてしばらく経ったこの頃は、暑さが本格化し、だんだんと外に出ることが億劫になってきている。

 しかし、私の仕事は仮にもメイドである。


「何かアイスなどを買ってこようと思うのですが、桜子さまは何を食べたいですか?」


「私はフルーツ系のアイスを頼むよ」


「分かりました」


 私がそう返事をして、玄関の扉を開けると、後ろからドタバタと足音が近づいてきた。

 振り向くとそこには桜子が両手を広げて待っていた。

 私は桜子の胸元に吸い込まれるように飛び込み、抱き締められた。

 桜子とお付き合いを始めてからは、自然とこのようなハグをする機会が増えた気がする。

 桜子の胸の中で、私は彼女の顔を見上げながら言う。


「桜子さまはせっかくの夏休みなんですから、お家でゆっくりと過ごしていて下さいね」


「ありがとう、甘えさせて貰うよ」


「では、さらに暑くなる前に行ってきますね」


 そう言って、私は桜子から離れた。

 桜子も少し名残惜しそうにしながらも、手を振って送り出してくれた。


「行ってらっしゃい」


「行ってきます!」


 桜子のお見送りを受けて、私は玄関から外に出た。

 やはり外は暑い。

 長居すると、私がアイスみたいに溶けてしまいそうだ。


「本当にこのお洋服を買ってもらって正解だったな」


 私は桜子との初お出かけ、いや、初デートで買ってもらった服を着ていた。

 流石に外でメイド服を着るわけにはいかないため、外ではいつもこのコーデか、桜子に貸してもらった服を着ている。

 桜子の貸してくれる服はどれもとてもよいが、私のお気に入りはやはりこの服である。

 この服を着ていると、桜子に守られたあの時を思い出して、外でも安心できるからというのは桜子には内緒だ。


「いつもの所より少し先のスーパーが今日は安売りしてるみたいですね」


 メイドとしての生活に慣れてくると、身体が勝手にチラシを読むようになった。

 桜子はあまり値段は気にしないでいいと言うが、将来のためにできるだけお金は節約しておきたい。

 いつかは妻として桜子のことを支えたいと思っている。

 だから、今のうちに妻としての力を磨いておかなければならない。

 私がそんなことを考えながらスーパーへと向かっていると、桜子と同じ制服の生徒とすれ違った。

 桜子は電車でかなり遠くの高校へと通っているため、近所に同じ高校の生徒がいるなんて思ってもいなかった。

 夏休みに制服姿ということは部活か何かの帰りだろうか?

 その生徒は少し長めの茶髪を後ろでひとつに結い、スクール鞄だけを持っていた。

 特に目立つものは身につけていなかったが、ひとつだけ私の目を引くポイントがあった。


「あのスクール鞄についているキーホルダー、桜子さまのと同じやつだ」


 桜子は昔からずっと大切にしているものだと言っていた。

 かなり独特な花?のような見た目であるため、見間違えようがない。


「桜子さまと同じような感性の人がこんなに近くに住んでいたんですね」


 帰ったら桜子に教えてあげよう。

 きっと桜子ならご近所同士仲良くなれるかもしれない。

 桜子のことだから、もしかしたらもう既に知り合いかも知れないが。

 あっ、そんなことより―


「タイムセールが始まっちゃう!」


 私は、今一番大切なことを思い出し、そのままスーパーの方向へと駆け足で向かっていった。



 そんな私の後ろ姿を眺める人がひとり。


「あの子、どうしてラコの家から出てきたのかしら?」


 私はとても急いでいた。

 それ故に、茶髪の少女のその独り言に気付くことはなかった。



  ◇◇◇



「ただいま戻りました」


「お帰り!」


 桜子が玄関で私を出迎え、私の手にある買い物袋を受け取ってくれる。


「アイスを買ってきたので、溶けちゃう前に食べましょう」


「そうだね、私が用意しておくから着替えておいで」


「ありがとうございます」


 そう言って私は脱衣所に行き、お気に入りの服を脱いで下着姿になった。

 いくら涼しい服装をしていても、やはり外は暑い。

 私はハンドタオルを手に取り、汗を拭き取っていた。

 その時、玄関のチャイムが鳴った。


「桜子さま、私は今出られないので、お願いします!」


「了解!」


 桜子が玄関の方へ歩いて行く音が聞こえる。

 桜子が宅配でも頼んでいたのだろうか?

 私がそんなことを考えていると、玄関の方から声が聞こえた。


「じゃあ、久しぶりにお邪魔するわね!」


「まっ、待ってくれ!今は家が汚いから入らないでほしい!」


「妹さんが掃除しなくなってからラコの家が綺麗なことなんてあったかしら?ほら!」


 リビングの扉が開けられる音がする。


「あれ?ラコの掃除スキル上がった?」


「そ、そうだな!私もやればできるんだ!」


「へぇー」


 話し方的に今家の中にいるのは桜子の友達だ。

 早くメイド服を着ておもてなししなければ―


「あっ……」


 私はメイド服をベランダに干しっぱなしにしていたことを思い出す。

 代わりの服を探すが、私が整理整頓をしすぎたせいで、さっきまで着ていた汗で濡れた服しか脱衣所にはなかった。


「こんな汗臭い服で出ていける訳ないよ……」


 私は桜子の友人が帰るまで脱衣所に潜伏しておくことにした。

 私は脱衣場の扉の隙間からリビングの様子を伺った。

 リビングへ向かう扉が開いていたことで私は外に出られないのだが、逆にその扉が開いていたことで様子を伺うことができた。


「久しぶりにラコの家に来たけど、ここまで部屋が綺麗になっているとは思わなかったわ」


「私もやればできるんだよ!」


「そう……まるでラコ以外の人が掃除したのではないかと思うほどに綺麗なのだけどね」


「いやいやいやいや、私はここのところずっと一人暮らしだよ!私が頑張ったんだ!」


「そう、じゃあ信じる……って言うと思った?」


「待て!そこは……!」


 足音が突然私の方に近づいてきて、扉が開け放たれる。

 下着姿の私と来訪者の目が合う。

 茶髪を後ろでひとつに結った髪型。

 桜子と同じ制服。

 いや、さっきの人じゃん!


「えぇぇ!」


「きゃあ!」


 ふたつの悲鳴が家の中に響く。

 私と来訪者は驚きすぎてしばらく悲鳴を上げていた。

 悲鳴が静かになり、少し間が空いた後に茶髪の少女が私に謝罪する。


「あの……ごめんなさい、探偵ものみたいな感じの、冗談のつもりで開けたら本当にいたものだから……」


「いえ、こちらこそお見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ございません……」


 私はそう謝罪をして、タオルを身体に巻いて、そそくさとベランダのメイド服を取り込み、それに着替えた。



五分後


「さっきはごめんね、着替え中に突然開けちゃって」


「こちらこそお見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ございませんでした」


 私と桜子と桜子の友人の三人はダイニングテーブルのそれぞれの面にひとりづつ座り、アイスを食べていた。


「ねえラコ、隠してたことは怒らないから教えて、その子は雇ったメイドさんか何かなの?」


「あ、ああそうだ!よ!」


「なんか今日のラコ、様子おかしくない……?」


「そうかな?いつも通りの私だけど……」


 どうやら桜子は私たちの関係をあまり表向きにはしたくないらしい。

 何か事情があるのだろうか?


「ねえ、メイドさん、お名前は何て言うの?」


「前田 雫と言います」


「私は桐谷 渚(きりたになぎさ)、ラコの幼馴染みよ、よろしくね」


 同じキーホルダーをスクール鞄に付けていたのはそう言うことか。


「はい、よろしくお願いいたします」


 桐谷さんはにっこりと微笑み、私の手を握った。


「雫ちゃんはラコに変なことされてない?この人、変人だからさ!」


「変人呼ばわりは酷いな」


「だって昔からそうじゃない!」


 桜子と桐谷さんのやり取りを見ていると仲の良さに微笑ましくなる。


「私は桜子さまに特に変なことはされていませんよ、たまに突飛な行動で驚かされることはありますが」


「そんなことはないだろう」


「ありますが」


 私と桜子のやり取りを見て、桐谷さんは笑っていた。

 桐谷さんが私ににこやかに微笑みながら言う。


「雫ちゃん、これからもラコの子守りをよろしくね」


「お任せください、しっかり躾ておきます」


「雫!?」


 私と桐谷さんがふたりして桜子をからかっていると、桜子は驚愕して目を真ん丸にしていた。

 私が桜子の驚き顔を楽しんでいると桐谷さんが話を変える。


「そうそう、今日はね部活の九州遠征のお土産を持ってきたの」


 桐谷さんが机の上に箱を置く。

 九州のさまざまな県のお菓子に桜子が目を輝かせる。


「ラコはこれまで、仕事柄もあってお菓子をあまり食べられなかったけど、今はモデルのお仕事をお休みしてるから、今なら気にしないで食べられるでしょ」


「そうだな、本当にありがとう」


「でも、食べすぎて太ったらモデルに戻れなくなっちゃうから、雫ちゃんと分けて食べるのよ」


「桐谷さま、ありがとうございます」


 私は桐谷さんにお礼をいい、お菓子を受け取って、菓子置きの机へ持っていった。


「じゃあ私はそろそろお暇させてもらうわね」


 私と桜子に見送られて桐谷さんは玄関の扉を開けて外に出た。


「今日はありがとう、渚」


「うん、じゃあまたね」


 そう言って桐谷さんは帰っていった。

 扉が閉まると私と桜子は顔を見合せ、ほっと息をついた。


「私の幼馴染みが突然押し掛けてすまなかった」


「いえいえ、桜子さまの友人関係を知れて良かったです」


「雫の下着姿は私もまだ見ていなかったのに……」


「彼女なんですから、見たかったらいつでも見せてあげますよ」


 私がそんな冗談を言うと、桜子はやはり真っ赤になった。


 この人は本当に口だけなんだから。



 私たちがそんなやり取りをしている扉の向こうで、茶髪の少女がつぶやく。


「ラコ、何か絶対に隠してる」


 茶髪の少女は、恋する乙女の顔をして自らの疑問を空の星に問いかけた。


「あんな若いメイドさんを雇用できるわけ無い、あの子はラコのなんなの?」



  ◇◇◇



「ところで、桜子さまはどうして私との関係性を桐谷さまに伏せたんですか?」


 桐谷さんが帰ったあと、私は頂いたお菓子を食べながら桜子に問いかけた。

 幼馴染みなら、付き合っている相手が女性だと伝えても祝福してくれるのではないだろうか。

 世間一般では、認められないと言う人も多い恋愛の形ではあるが、令和のこの時代はその辺りに寛容な人も多いだろう。

 たぶん。

 私がそんなことを考えていると、桜子が悩む仕草を見せた後に答える。


「渚はおそらく私のことが好きだ」


「え?」


 私は斜め上の回答に思わず聞き返してしまった。

 驚く私を置いてきぼりにして、桜子は根拠を述べる。


「私の恥ずかしい勘違いでなければ、中学生の頃から……その……友情以上の感情を向けられている気がするんだ」


 でも、それが分かっているなら―


「桜子さま、そう感じているのであればなおさらちゃんと伝えるべきではないのでしょうか?」


「どうしてだい?」


「自分に恋する相手に、いずれ分かる辛い現実を突きつけること、それは一見残酷に見えて、一番の優しさなんです」


「それでは渚が傷つくのではないか?」


「はい、もちろん傷つくと思います」


「だったら……」


「でも、早いうちに伝えなければ、いつかもっと深く渚さまを傷つけることになりますよ」


「渚を深く傷つける……」


「今すぐに伝えろとは言いません、でも、早めに伝えておくべきだと私はアドバイスしておきます」


「分かった、参考にするよ」


 桜子に事の重大さを分かってもらえただろうか?

 でも、私がこれ以上、人の恋愛事情に首を突っ込みすぎるのは良くない。

 これは桜子が解決するべき問題だ。

 もちろん、桜子が助けてくれと言えば、私は相談に乗るし、解決するために助力することを厭わない。

 それが私と桜子が決めた、ふたりの生き方だからだ。

 でも、私はこの問題は桜子と桐谷さんの間で解決して欲しいと考えている。

 ふたりは幼馴染みなのだ、きっと私なんかが間に挟まらなくても、話せば分かり合えるはずだ。


「説教臭いことを言ってしまい、申し訳ありません」


「いやいや、とても参考になったよ、ありがとう」


 私と桜子はそこで一旦その話を終わらせ、次の話題に移った。


「再来週、向こうの山にある神社で夏祭りがあるんだが、一緒に行かないかい?」


「是非行きたいです!」


「沢山の出店があって、賑やかで楽しいんだ」


「でも、私浴衣とか持ってませんよ」


「それは気にしなくていい、私の妹のものを貸そう」


「妹さんの……本当によろしいのですか?」


「妹も全く使われずに部屋の棚に仕舞いっぱなしにされているより、使ってもらった方がきっと喜ぶよ」


 私はそれでも……と断ろうとしたが、よくよく考えればメイド服を妹さんから借りているのだった。

 今さら失礼だから借りないと言うのも、なにか違うだろう。

 私はそう考え、桜子の妹さんから浴衣を借りることにした。


「お祭り楽しみですね」


「ああ、絶対に一緒に行こう!」


 この時、私たちは知らなかった。

 夏祭りに辿り着くまでの道があんなに厳しいものになるなんて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ