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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第一章) 私たちの出会い

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(5) はじめの一歩

「どうして、東雲(しののめ)さんがここに」


 私は突然現れた同級生、いや、元同級生に困惑しつつ尋ねた。

 今日は平日で学校は普通にあるはずだ。

 桜子も学校を休んで私と遊びに来ているわけだから、今日が祝日というわけでもない。


「ああ、私たち振替休日なの、だから遊びに来たってわけ」


「そうなんだ、だから遊びに来てたんだね」


「そうそう、あんたと違って貴重な休みだから大事に大事に遊びに来たのよ」


 彼女の茨のような言葉が、私の傷に突き刺さる。

 本人はきっと、ちょっとからかう位のつもりなのだろうが、私はそれだけでもう限界寸前だった。


「じゃ……じゃあ私、人を待たせているから行くね!」


 私が桜子のいる洋服屋の方に行こうとすると―


「またそうやって逃げるんだ、前田さん」


 その一言で身体が動かなくなる。

 そのまま立ち去ってしまえばいいのに、動けない。

 鼓動が早くなり、視界に火花が散る。


「本当に、お姉さんがいなくなったらお話もできないんだね」


「あっ……」


 悪夢の内容が現実で再来する。

 指先が冷たくなっていく。


「なんか言い返してみなよ」


 私は言い返してやりたかった。

 私は今までとは違うって。

 言い返してやって、桜子との出会いでやっと前を向けたって、そう思いたかった。

 でも、声が出なかった。


「ち……がう……」


「何が違うって?」


 私が頑張らないと、頑張らないと、頑張らないと、頑張らないと、頑張らないと―


「わ……たしは……っ!」


「気持ち悪い」


 東雲さんはそう言って、手に持っていたアイスコーヒーのカップを私に向かって投げてきた。

 せっかく綺麗なお洋服を買ってもらったのにな……。

 桜子さま、ごめんなさい。

 私、頑張れませんでした……。

 私は衝撃に備えて目をつむり、身構えた。

 しかし、数秒たっても私の真新しいシャツは白いままだった。

 私は恐る恐る目を向けた。

 私の目の前に誰かが立っている。


「雫、大丈夫かい?」


 目の前には誰よりも心強い人がいた。


「ごめんなさい……私、頑張れなくて」


 桜子は投げられたコーヒーを頭から被っており、せっかくの純白のワンピースに大きなシミができてしまっていた。


「人に物を投げるのは、人としてどうなんだい?」


「誰よ、あんた」


「私は雫の……パートナーだ」


 桜子の答えに、東雲さんが露骨に嫌そうな顔をする。


「へぇ、お姉さんがいなくなったから、自分を守ってくれるお姉さんの()()()の人を見つけたんだ」


 桜子は私の手を握ってくれた。

 手に痛いくらい力が入っている。

 それだけで、桜子が本気で怒ってくれていることが伝わった。


「君もいい加減黙りなよ、大切な人の代わりなんて見つかるわけがないだろう、自分の大切な人の役割は、その大切な人本人にしか務まらないんだよ」


 桜子が東雲さんに対して怒りをあらわにする。

 すると、東雲さんはさらに不愉快そうにして言う。


「大切な人?あんたは知っているの?前田さんがお姉さんに無理をさせて、不幸にしたって」


「君に雫の何が分かるって言うんだ」


「じゃあ、あんたは前田さんのことを全て分かっているの?」


「私と雫は出会ってからまだ日が浅い、だから雫から聞いたことしか私は知らない、でも―」


 桜子は一瞬私の方を見て、微笑んでから言う。


「雫のお姉さんが、雫のことを愛していて、雫が幸せになることを一番の幸せだと思っていたことは私でもわかる」


「それが何?」


「雫を虐めて不幸にしている君の行動が一番、雫のお姉さんの幸せを邪魔しているって話だよ」


「……っ!」


「君は雫のお姉さんのことが好きだった。だから、雫がお姉さんを不幸にしたと決めつけて、鬱憤を晴らしているのだろう」


 桜子が畳みかける。


「きっと、お姉さん本人は、雫と一緒に生活していて一度も不幸だとは感じていなかったと思うよ」


 桜子が私の手を優しく握り直す。

 桜子の体温が、凍った私の身体を溶かす。

 今なら……言える。


「お姉ちゃんは立派な人だった」


 私にはもったいないくらいの素晴らしいお姉ちゃんだった。


「たしかに、私はお姉ちゃんにたくさん迷惑を掛けたかもしれない、いや、掛けた」


 私はそこで一度、喉に言葉をため、吐き出した。


「私のお姉ちゃんは死んだとき、私の写真を持っていたの」


 私はお姉ちゃんに愛されていた。


「私のお姉ちゃんはいつだって、私の幸せそうな顔を見ると喜んでくれた」


 だから、私は笑わなければならない、いや、自然な笑顔を見せてあげたい。


「私はそんなお姉ちゃんのために幸せにならなきゃいけないの」


 それがきっと、お姉ちゃんにとっての幸せだから。


「お姉ちゃんからもらった、大切な人生だから、最後の一秒まで幸せにならなきゃいけないの」


 桜子と話していて、私はこれまでの考えを改めた。

 私も、これまでは自分がお姉ちゃんを不幸にしたと思って、自分を許せなかった。

 でも、お姉ちゃんにかけてもらった言葉を思い出すと、その全てに私に幸せになってほしいという想いがこもっていた。

 そして、気づいたのだ。

 私が幸せにならなきゃ、お姉ちゃんが報われないって。

 だから―


「私が桜子と幸せになる邪魔をしないで!二度と私たちに関わらないで!」


 やっと私は拒絶できた。

 これまでは、どんなに棘のある言葉や嫌なことに対しても受け身でいた。

 ひとりになるのが……さらに嫌われるのが怖かったから。

 でも、もう私はひとりじゃない。

 いや、ひとりにさせてもらえない。

 だって私の人生は桜子のものなのだから。


「私は幸せになるの!」


 いつも受け身の私が言い返したものだから、東雲さんは絶句していた。

 そして逃げるように―


「本当に気持ち悪い……」


 そう悪態をついて立ち去っていった。


「は……はは……」


 私の喉から乾いた笑いが溢れた。

 私は成長できたのかな?

 桜子と出会って変われたのかな?

 意識が朦朧としてくる。

 倒れそうになる私の身体を桜子が支える。


「よく頑張ったね、立派だったよ、雫」


「桜子さまの……おかげです……」


「そう言ってもらえると嬉しいよ、今は少しだけゆっくりと休むといい」


「そう……させていただきます」


 そうして私は意識を手放した。

 意識が暗闇へと落ちていく中、私の心は満足感でいっぱいだった。



  ◇◇◇



「う……っ」


 私の意識が覚醒する。

 頭に良いクッションのような柔らかい感触が伝わる。

 そしていい匂いもする。

 とても落ち着く匂いだ。

 あれ?この匂いは?


「おはよう、雫」


 私が目を開けると、目の前には美しい白髪の美少女のご尊顔があった。

 ということは私は―


「膝枕じゃないですか!」


 私は驚きすぎて、ガバッと起き上がった。

 おでこに衝撃が発生する。


「痛ったぁ……」


「うぐ……」


 私の顔を覗き込んでいた桜子のおでこと驚いていきなり起き上がった私のおでこがぶつかる。

 痛みで意識が完全に覚醒した私は、周りを確認した。

 どうやら私は、洋服屋の前のベンチで桜子に膝枕されていたらしい。

 えっ……じゃあ私、こんなに人の往来が多いところで桜子に顔を眺められていったてこと?

 誰かに見られてたらどうするの!

 めっちゃ恥ずかしいじゃん!

 私はおでこを押さえている桜子にとりあえず謝ることにした。


「あの……その……すみませんでした」


「いや、こちらこそ驚かせてすまなかった」


 桜子はここで素直に謝れるから偉いと思う。

 私がぶつかられた側だったら、小言の一つでも言っていただろう。

 私はそんなことを思いながら桜子の姿を見ていて、大切なことに気づいた。


「桜子さま、せっかくのワンピースが私のせいで……」


 桜子の純白のワンピースには、東雲さんから投げつけられたコーヒーが大きなシミを作っていた。

 このシミは桜子が私を守ってできたもの。


「本当にごめんなさい、私がもっとちゃんとできていれば……」


「雫は悪くない、私がそうしたかったからそうしただけだ」


 桜子が彼女の隣にある紙袋に視線を落とす。


「それに、ちょうどいい機会だったよ」


 紙袋にはさっき私が洋服を買ってもらった洋服屋さんと同じブランドロゴが描いてある。

 それが私を待たせて買いに行ったものだろうか?


「桜子さま、それは?」


「見てからのお楽しみだ」


 私たちは、先ほど買い物をした洋服屋さんへ向かい、試着室を貸してもらった。

 私が試着室の前で桜子を待っていると、女性の店員さんが話しかけてくる。


「先ほどは何かもめられていて大変でしたね」


「はい、でも、彼女がいてくれてとても心強かったです」


「よい恋人さんですね、大切になさって下さい」


 はたから見たら、仲の良い女友達に見えるのではないかと思っていたが、店員さんはどうして私と桜子が恋人だと思ったのだろうか。


「どうして私たちが恋人……というか、それに近いものだと思ったんですか?」


「さっきは試着室で何かされていましたし、お客様が倒れているときは、白髪の方がまじまじとお顔を覗き込まれていたので」


 やっぱり見られてるじゃん!

 店員さんがにやにやしながらこちらを見ている。

 気まずい……。

 桜子には公共の場であまりそういうことをしないように言っておかなければならない。


「雫、いるかい?」


 頭で思い浮かべていたご本人の声が聞こえ、私は笑顔で返事をした。


「はい!ここに!」


 しまった。

 私の笑顔を見て、さらに店員さんのにやにや度が上がった気がする。

 私も桜子のこと言えないかもしれない。


「それではいくよ」


 試着室のカーテンが開く。

 そこには私とまったく同じコーディネートをした桜子が立っていた。


「私とお揃いじゃないですか!」


「似合っているかな?」


「はい!もちろんです!」


 これがいわゆるペアルックというやつか。

 なんかいいな、こういうの。


「店員さんもありがとうございます。何度も試着室を貸していただいて」


 桜子が店員さんに感謝を述べる。

 すると店員さんは、さらににやにや度を増しながら私たちに言う。


「私も幸せでした」


「店員さん!?」


 私は店員さんの発言に驚いてしまった。

 店員さんは私たちを交互に見て続ける。


「またふたりで買いに来てくださいね。うち、ウエディングドレスとかもあるので、是非」


「いや、まだ早いです!」


 私はそう突っ込んでから、しまったと思った。

 目が合った桜子が私に言う。


()()ね」


 店員さんに続いて、桜子まで私の方を見てにやにやし始めた。

 恥ずかしい……。


「じゃ、じゃあ私たちはこのあたりで帰らせてもらいますね」


 私は恥ずかしさに耐えきれなくなり、桜子の手を引いてお店を出た。

 私たちが洋服屋を出てからも、しばらくの間店員さんは私たちの姿を見てにやにやしていた。

 私は今度からあの洋服屋を利用するとき、どんな顔をして行けばよいのだろう。


「桜子さまも、公共の場であまりくっつき過ぎないで下さい!」


「君はそう言うが、今は君の方から手を握ってくれているじゃないか」


 こいつ!

 私の顔が熱くなっていく。

 たしかにその通りだ。

 私は咳払いをして、恥ずかしさをごまかし、桜子に言った。


「手つなぎは友達でもしますからね」


「じゃあこうするかい?」


 そう言って、桜子が指を絡めて恋人つなぎにしてくる。


「もう知りません!」


 私は赤くなった顔を桜子から背け、怒った。

 でも、繋がれた手は決して離さなかった。

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