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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(最終章) 私たちの人生

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42/42

(42) 私たちの少しだけ未来のお話

 無機質だが高級感のある自動ドアをくぐり、建物の中へと入る。

 建物に入ると、エントランスにいた多くの人の目が私へと向いた。


「うぅ……」


 私の姿を見た多くの人が有名人でも見たように歓声をあげる。

 まあ、一応業界ではちょっとだけ有名人だけど……。

 視線から逃げるように、受付へと向かう。


「こ、こんにちは!」


 私がぎこちなく挨拶すると、受付のお姉さんは柔らかく微笑み、受付用紙を渡してくれた。

 受け取った用紙に名前を書き込み、通行証を受け取る。

 私が通行証を首に掛けると、お姉さんが私を案内してくれた。


「こちらのエレベーターーから四階へ上がり、スタッフの案内に従って下さい」


「分かりました。ありがとうございます」


 私は周りからの好奇の視線から逃れるように、そそくさとエレベーターに乗りこんだ。

 扉が閉まるとようやく一息つくことができた。


「やっぱり、緊張するよ……」


 私の人生は注目する側から注目される側のものへと変わった。

 自らそうなりたいと志し、努力した結果なのだか、どうにも慣れない。


「若き才能の原石ねぇ……」


 私は業界ではそう呼ばれ、今では様々な現場に起用してもらえるようになった。

 でも―


「そんなに誇張しないでよ……」

 

 口を開けば弱音しか出ない自分がだんだん嫌になってくる。

 私が深呼吸をして気持ちを切り替えていると、エレベーターが四階に到着した。

 扉が開く。


「―さん。控え室へご案内致します」


 おそらく受付のお姉さんが連絡を飛ばしていたのだろう。

 エレベーターの扉が開くと、目の前には案内人が待機していた。


「は、はい!よろしくお願いします!」


 必死に声を絞りだし、平然を装った。

 私の声は震えていないだろうか。

 相手の企業は私を信用して起用してくれているのだから、私があまりにおどおどし過ぎて、不信を招いてしまうのもよくない。

 頑張らなければ……。


「……よし!」


 いつものように頬をぺちぺちと叩き、小さな声でそう気合いを入れ、案内人の後ろ姿についていく。

 廊下には多くのスタッフや関係者が駆け回っており、現場は慌ただしい雰囲気に満ちていた。

 どうにもこういう雰囲気は苦手だ。

 何度同じような現場に足を運んでも慣れない。

 でも、この業界に身を置いた以上、いつかは慣れなければならないだろう。


「こちらになります」


 案内人が目の前のドアを手で丁寧に指し、ノックする。

 扉が開くと、案内人が部屋の中に声をかけた。


「―さん入ります!」


 その言葉に、私も本格的に覚悟を決め、扉の内側へと大きく踏み出した。


「よろしくお願いします!」


 私が元気に挨拶をすると、周りの視線が私に集まった。

 周りにはたくさんの関係者がいた。

 その中には他の現場で一緒になった人も何人かいる。

 まずはその人たちのもとへ向かい、軽い世間話をした。

 しばらくの世間話の後、私が辺りを見回すと、今日私が担当するモデルを見つけた。

 椅子に腰かけるのは、綺麗な白髪をメイクのしやすいように軽く結ったひとりのモデルだった。

 圧倒的過ぎて逆に近寄りがたい雰囲気を持ったモデルの姿に、私はむしろ安心感を覚えた。

 モデルのすぐ後ろに立ち、声をかける。


「まあ、一応は初対面ってことになるのかな?」


「そうだね。仕事場で会うのは初めてだ」


「まあ、あなたの顔自体は毎日飽きるほど見てるけどね」


「私の顔は飽きるくらい魅力がないのかい?」


「なわけ。いくら見ても足りないくらいだよ」


「それはよかった」


 軽口を交わしている間にメイクの準備を終わらせる。

 いよいよ私の夢が、いや、ふたりの夢が叶う瞬間がやってきた。


「それじゃあ、始めるね!桜子!」


「ああ、よろしく頼むよ。雫」



  ◇◇◇



「あぁぁ……疲れた……」


 レストランのテーブルにカジュアルなスーツを着た私は突っ伏した。

 お洒落なレストランでやる行動としては不適当だが、部屋には私ともうひとりしかいないのだから気にすることもないだろう。

 私が机に突っ伏しながらうめき声をあげていると、私の頭を桜子が優しく撫でてくれた。


「お疲れ様。よく頑張ったね」


 桜子に撫でてもらうと、ようやく元気が出てきた。


「ありがとう……」


 私たちは今日、とあるモデル雑誌の撮影の仕事をした。

 私はこの仕事をもらったとき、初めは受けるか悩んでいた。

 なんてったって、超有名雑誌会社からのオファーだ。

 いくら緊張してもし足りないくらいだ。

 しかし、私は関係者の中に桜子の名前を見つけた瞬間にこの仕事を受けることを即決した。

 でも―


「やっぱり周りから注目されるのはしんどいよぉ……」


「それが実力のあるものの運命なんだよ。じきに慣れるさ」


 私の頭を撫でる桜子はそう言って微笑む。

 やっぱり世界で輝くモデルは違うな……。


「でも、私は雫と仕事ができてとても嬉しかったよ!」


「それは私も同じ!すごく嬉しかったし、楽しかった!」


 今ではこの仕事を受けてよかったと思っているし、後悔もしていない。

 私も経験を積んでいけば、いつかは桜子のように振る舞えるようになるのだろうか。

 私がそんなことを考えていると、個室の入り口の扉からノック音が聞こえた。


「どうぞ」


 桜子が扉の向こうにそう声をかけると、扉を開いて部屋の中に懐かしい人物が入ってきた。


「おまたせ!あれ?ふたりともなんか元気ない?」


 疲れきった私たちの姿を見て、来訪者はそう問いかける。


「そういう渚は、一日厨房に立ってきた後なのにどうしてそんなに元気なんだい?」


「うーん……。久しぶりに親友に会えると思うとなんだか嬉しくて!」


 桐谷さんが耳の先を赤くして言う。

 なんか、桐谷さんがまっすぐな桐谷さんのままで大人になってくれて嬉しいな。


「桐谷さん!お久しぶりです!」


「久しぶり!雫ちゃんも元気そうでよかった!」


 私たちはハグをしたり、写真を撮ったりしてひとしきりわちゃわちゃした後、三人でテーブルについた。

 今日は桐谷さんのお父さんのお店の一室を借りて、三人でご飯を食べることになっている。

 三人がちょうど席に着いたタイミングで桐谷さんのお父さんがやってきた。


「雫ちゃん、桜子ちゃん。ふたりとも久しぶりだね」


 桐谷さんのお父さんは和やかな表情で私たちにそう言い、前菜を運んできてくれた。

 とても美味しそうな生野菜と生ハムのサラダだ。


「これは私じゃなくて、渚が作ったサラダだよ」


「もぉ!恥ずかしいから言わないでって言ってたのに!」


 桐谷さんがお父さんに照れながら怒る。

 それにしても、サラダのクオリティーは言われなければプロが作ったと言ってもバレないほどの完璧な出来だった。


「このサラダ桐谷さんが作ったんですか!?すごいです!野菜も丁寧に飾り切りされてますし、多分ドレッシングも手作りですよね!?」


「……そうよ!やっとお店で出す料理もコース料理の前菜だけは任せてもらえるようになったんだ!」


 桐谷さんもお父さんの店を継ぐという夢に向かって少しずつ進んでいるのだ。

 私はそれを知れてとても嬉しかった。

 桐谷さんのお父さんが部屋から出ていくと、桐谷さんが私たちに提案した。


「それじゃあ、再会を祝して乾杯でもする?」


「そうだね。乾杯の音頭は……雫に取ってもらおうかな」


「えっ!?なんで私?」


 焦る私を見て、ふたりが笑う。


「無理だよぉ……」


「いいじゃん!いいじゃん!ファイト!」


「私も雫にやってほしいな!」


 しかし、私がいくら無理だと言っても、ふたりはどうしても私にやらせたいらしい。

 こうなったらやるしかない……。

 私は何を言おうか、ふたりの顔を見回した。

 目の前のふたりが楽しそうに微笑んでいる。

 なんだかその景色は、昔、みんなではしゃいでいた頃の景色のようで―


「またこの三人で集まれて、私はすごく嬉しいな!大人になって、働くようになって、嫌になることも多いけれど……でも、ふたりと過ごしたこれまでの楽しかった思い出が、今も私を支えてくれているの!だから……だからこれからも……」


 改めて口に出すと感極まってしまい、涙と嗚咽が溢れる。

 ふたりがにやにやしながら私に問いかける。


「これからも?」


「これからもどうしたいんだい?」


 分かっているくせに。

 まったくもう……。


「……これからもよろしくね!」


 私のお願いにふたりが同時に頷く。

 それを見て、私はシャンパンの入ったグラスを持ち上げた。


「それじゃあ!乾杯!」


「「乾杯!」」


 グラスがいい音で鳴る。

 シャンパンに口をつけると、それは桜子のオススメということもあり、飲みやすかった。

 私はすぐに酔ってしまうから、お酒はあまり得意でないけれど、ふたりの前でなら酔ってもあんし―


「ちなみに、あなたたちは飲みすぎちゃ駄目だからね」


 私が安心してお酒を飲もうとしていると、桐谷さんの忠告が入った。

 私と桜子が、一体どうしてという風に首をかしげる。

 それを見た桐谷さんが呆れたようにため息をついた。


「明日の式に二日酔いで出る気?あなたたちが式の主役なのよ?」


「「あ……」」


 私と桜子がアホっぽく口を開ける。

 大切な予定であることに間違いはないが、ここ最近はお互いに仕事が立て込んでいて、うっかりしてしまっていた。


「そんなことだと思ったわ……」


「……雫。私たちは今日はこの一杯だけにしておこうか」


「そ、そうだね!明日の式は桐谷さんが料理を作ってくれるから、二日酔いで食べられないなんてことがないようにしよう!」


 私たちの答えを聞いて、桐谷さんが満足そうに頷く。


「じゃあ、この良いシャンパンは私がもらうわねー」


「もしかして、最初からそれが狙いだったのではないかい?」


「うん?一体なんのことかしら?」


 桐谷さんはそう言って誤魔化したが、きっと私たちの式が上手くいくことを願って言ってくれたのだろう。

 すごくありがたい。

 そんな桐谷さんにも喜んでもらえるように、明日の結婚式はバッチリ決めなければならない。


「とにかく!今日は楽しみましょう!」


 こうして始まった再会の宴は、新鮮な気持ちと懐かしい気持ちが入り交じっていて、とても楽しかった。

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