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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第五章) 私たちの新婚旅行

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(39) 旅の終わりと旅の始まり

「ふぅ……」


 身体を包み込む暖かさが、寝起きの私を目覚めさせていく。

 こんなに朝早くから貸し切り状態の温泉でくつろげるというのも、旅行の贅沢というものだろう。

 隣の少女が温泉を満喫できているか気になり、顔を見てみると、少女は目を閉じて脚を伸ばしていた。


「桜子も気持ちよさそうでよかった!」


「家のお風呂も良いけど、やはり脚を伸ばして暖まれるというのは良いものだね……」


 桜子の声はとても気持ちよさそうで、今にも寝てしまいそうな感じだった。

 私たちは今、旅行最終日の朝に温泉に浸かっている。

 桜子と一緒に来たいと思っていたこの温泉に、旅行最終日にはなってしまったが、ようやく桜子を連れてくることができた。

 温泉から上がったあとは、宿のチェックアウトをして家に帰ることになっている。

 色々なことがあった旅行も、もう少しでおしまいだ。


「桜子は旅行楽しめた?」


「ああ、もちろんだとも。何もないこの島だったからこそ、自分自身と深く向き合うことができたし、雫ともちゃんと向き合うことができたんだ」


「ふふ、そう言ってくれると凄く嬉しいな!」


 私の親との件で、桜子には沢山迷惑をかけてしまった。

 私がお礼を言っても、桜子は私のためなら迷惑でもなんでもないと言ってくれるだろう。

 だから―


「私、桜子のことものすごーく大好き!」


「私も雫のことが大好きだよ!」


 何度言っても言い足りない。

 だから、何度もお互いに愛を伝え合った。

 そんな風に何度も愛の言葉を交わし合って、私たちは気恥ずかしさで大笑いした。


「それじゃあ、上がろっか!」


「そうだね。部屋に戻って頑張って帰り支度を整えるとしよう」


 桜子が先に立ち上がり、私に手をさしのべてくれる。

 桜子の引き締められた全身が露になり、思わず魅入ってしまう。

 そんな私を見て桜子が笑った。


「何度も私に抱かれてるくせに。雫は変態さんだなー」


「うるさい!綺麗なものは何度見たって綺麗なんだよ!!」


「はいはい……」


 桜子の手を取り、身体を起こして立ち上がる。

 口では怒ったふりをしているものの、こういうやり取りですらも幸せだと思える。

 そんな幸せ中毒の私だった。



  ◇◇◇



 部屋の中に広げていた私物をスーツケースにあらかた詰め込み終わり、小休憩としてコーヒーを飲みながら窓の外を眺めていると、眼下の道を歩く女性と目があった。


「お母さん……」


 その女性は間違いなく私のお母さんで、彼女の少し前には、私の記憶の中にある姿とほとんど変わらないお父さんの姿もあった。

 どうやら私たちより一足先に帰るらしい。


「またいつか……ね」


 私がそう呟きながら手を振ると、お母さんが小さく振り返してくれた。

 前を歩くお父さんは気がついていないようだったが、それでよかった。

 いつか、お母さんとお父さんの考えが一致したときにまた四人で集まると、私とお母さんでそう決めたのだから。

 だから……今は別にいいのだ。

 私がそんなことを考えていると、お母さんは身を翻し、お父さんの方へと駆け寄っていった。


「あれが雫のお父さんかい?」


 私の頭上からそんな声が聞こえる。

 私の頭に顎をのせて外を眺める桜子の声だ。


「そうそう。あれが私のお父さん」


「いつか、また向き合えるといいね」


「そうだね!」


 いつか、いつかと未来のことばかり考えてしまうが、明るい未来について考えることは苦痛ではない。

 むしろワクワクする。


「私たちもそろそろ帰ろっか!」


「そうだね。あと少しだけ荷造りを頑張ろう!」


「うん!」



  ◇◇◇



「相変わらず進んでいるのか不安になる道だね……」


「たしかに!でも、夢の世界と現実の世界の境みたいな感じがして私は好きかも!」


 私たちは、来たときと同じ海辺の道を逆走して、いつもの生活へ帰ろうと歩みを進めている。

 この旅行で私たちは大きく成長できた。

 私自身もそうだし、私と桜子の関係性もだ。


「桜子が私の旦那さんか……」


「嫌かい?」


「いやいや、そんなわけないでしょ!自分からプロポーズしておいて、嫌だって言ってるのだとしたら、流石に私最低過ぎるよ!」


「ごめんごめん、冗談だよ」


「もぉ……。私は幸せすぎて現実味がないって言いたかったの!」


 私がポコポコと桜子の肩を叩くと桜子は笑いながら頭を優しく撫でてくれた。

 こうして桜子に撫でられていると凄く幸せな気持ちになる。

 私が猫のように向こう任せに撫でられていると、桜子が手を止めた。


「桜子?」


 私が顔を上げると、桜子は真剣な表情をして私を見つめていた。


「雫。私は君が前に進もうとする姿を見て、私も頑張らなきゃなと思ったんだ」


「うん」


「だから……私はエマさんの招待を受けることにするよ」


「無理……してない?」


「もちろん寂しいよ。でも、雫のくれたこの指輪と君との思い出があれば、いつでも身近に君を感じられて、頑張れる気がするんだ」


 そっか……。

 私の心は痛快な気持ちでいっぱいだった。

 私は、その未来を望んでいたはずなのに、いざ声に出して『行く』と言われるとなかなかにくるものがある。

 でも―


「なら、私も全力で応援するね!電話だっていっぱいする。桜子が帰って来られる時にはいっぱい、いっぱい、いちゃいちゃしよう!」


 私は自分の夢を叶えて、今以上に輝く桜子を見たい。

 だから、桜子の背中を押した。

 桜子が優しい笑顔で私を抱き締める。


「ありがとう……私は、雫に誇れる私になることができるように頑張るよ!」


「私も頑張るね!」


 私も桜子も夢に向けての一歩を踏み出すことができた。

 未来はいつだって不確定で、辛くなることも嫌になることもきっと沢山ある。

 でも、私たちふたりならきっと乗り越えられる。

 だから―


「旅行から帰ったらまたメイク教えてよね!」


「もちろんだとも!またランニングにも付き合ってもらうからな!」


 私たちは踏み出した一歩を足掛かりに、未来へと駆け出したのだった。

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