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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第五章) 私たちの新婚旅行

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(35) 星の雫

「桜子!こっちこっち!」


 私が振り返って大きく手を振ると、桜子が小走りで追いかけてきた。

 追い付いた桜子に肩をガシッと掴まれる。


「ほーら!暗いんだからひとりで走っていったら危ないじゃないか!」


「ごめんごめん……つい興奮しちゃって……」


 夜になり、私と桜子は宿の裏手にある小高い丘へとやってきていた。

 目的は今回の旅行のお目当てである星を見るためである。

 今日は流れ星がたくさん見える日らしい。

 この丘の上なら宿の明かりも入らないし、木々に邪魔されることもないだろう。


「こことかどうかな?」


 私は地面が平坦な場所を見つけ、そこにレジャーシートを広げた。

 ここなら背の低い木々が風を遮ってくれるし、頭上が開けているため、寝そべって星を見ることができる。


「たしかに、ここはよさそうだね」


 桜子も同意し、私たちはそこを拠点として物を広げることにした。

 物と言ってもレジャーシートの上にクッションとブランケット、暖かいコーヒーの入った保温ボトルを置いただけだが、それだけであっという間にくつろげる空間が出来上がった。


「できた!さっそく寝そべってみようよ!」


「こんな経験はしたことがないから楽しみだよ!」


 私たちはレジャーシートの上に揃って横になった。

 外気温がとても低く、寒さを堪えなければならないかもと考えていたが、大きなブランケットをふたりで被っていると、その中の空気がふたり体温で暖まり、想像以上に暖かかった。

 外気温との差も相まって、気を抜くと寝てしまいそうだ。


「暖かいね」


「そうだね。逆に快適すぎて寝ちゃいそう!」


 ふぅと深く息を吐くと、私の口から白い息がたくさん出た。

 本当に冬の夜という感じだ。


「……なんだか懐かしいな」


 私はふと、あの日の寒さを思い出した。

 私が命を絶とうとしたあの夜の寒さだ。

 あのときは、私を救ってくれる暖かさなんて、この世に存在しないと思っていた。

 ひとりで、孤独を抱えて死んでいくんだって、そう考えていた。

 だから、ひとりぼっちが寒くて、ただただ寒くて、この世から消えて楽になりたかった。

 でも、その寒さから私を救ってくれた暖かさがあった。

 それは星のように私を優しく照らしてくれる。

 そんな暖かさだった。


「桜子、私を拾ってくれて本当にありがとう」


 私の口からそんな言葉が溢れる。


「私は最初、桜子の優しさが怖かった。どうしてこの人は私に優しくしてくれるんだろうって、心のどこかでずっと疑心暗鬼になっていたの。家族でもない私にどうして?ってね」


「あの状況ならそう思われてしまっても仕方がないよ」


「桜子の底無しの明るさを、私は生前のお姉ちゃんの姿と重ねてしまった。お姉ちゃんにしてあげられなかったことを桜子にしてあげることで、勝手に罪滅ぼしをしようとしていたんだと思う」


「私も、偶然雫が妹のメイド服を着たときは驚いたよ。懐かしい妹の姿が脳裏によぎって、このまま君に妹の真似をしてもらっていれば、欠けた私の心は満ちるのかもしれないと、そう考えてしまったんだ」


「でも、私たちはそれを続けなかった。いや、続けられなかった」


 だって―



 結局、私たちは私たちでしかなかったから



「ふたりで生活していく中で、私たちはお互いについて知っていったよね」


「そうだね、お互いの良いところも悪いところもたくさん知ったよ」


 桜子の良い所だけを見ていたら、きっと私は桜子と一緒にいたいと思わなかっただろう。

 完璧に見える桜子にも弱いところがあって、できないことがあって……。

 この人も私と同じ、ひとりの女の子なんだなって思った。

 だから、あなたの手を引きたいと思った。

 あなたに手を引かれたいと思った。

 空に星が流れる。


「桜子見て!流れ星!」


 私たちはこれまで、お互いの手を引き合って、先の見えない人生(みち)をふたりで進んできた。

 先の見えない暗い夜空を、輝く星と雫が共に進んでいく、そんな流れ星みたいに。


「私は桜子とだからここまで歩いてこられた」


「私も雫とだからここまでこられたんだ」


 二つの視線が正面からぶつかる。

 流れ星の美しい所はどこだろうか。

 輝く星か?

 それとも流れる雫か?

 私は二つが合わさるからこそ、美しいのだと思う。

 星も雫も、共に進んでいく存在がいるからこそ、どこへ行ってもひとりぼっちにならない。

 ひとりじゃないからこそ、自信を持って輝くことができる。

 だから、流れ星は美しく、儚いのだ。


「渡したい物があるの」


「渡したい物?」


 私は身体を起こし、胸ポケットにしまっていた小さな箱を取り出した。

 私が自分で稼いだお金で買ったもの。

 決して高価なものではない。

 でも、私にとってはとても重たいものだった。

 桜子に今、どうしても伝えたかった思い。


「桜子、手を出して」


 桜子が身体を起こして手を差し出してくる。


「これでいいかい?」


「うん!」


 私は箱を開け、リングを取り出し、その片方を桜子の左手の薬指にはめた。

 その後、桜子にもうひとつのリングを渡して、私にもはめてもらった。

 桜子はなるほどという表情をして、笑顔を浮かべた。


「私はこれからも桜子と生きていきたい」


「うん」


「これはその気持ちを形にしたくて用意したの。私たちは何があっても繋がっているって、このリングを見るたびにそう思えるように」


「すごく嬉しいよ。雫が自分で買ったのかい?」


「うん、実はこっそりバイトして頑張って買ったんだ!」


「星と雫……流れ星がモチーフのリングか!私と雫にぴったりだね!本当に嬉しいよ!」


 桜子がこんなに喜んでくれたのなら頑張った甲斐があったというもんだ。

 喜ぶ桜子の顔を見つめていると、彼女は珍しく、出会ったばかりの頃のように顔を赤くした。


「これは雫からのプロポーズだと思ってもいいのかな?」


 いつもなら、桜子からプロポーズをして欲しいからとごねて、違うと言う。

 でも、今日だけは違った。


「……いいよ」


「やっぱり私か……ら……え?いいのかい?」


「これは私からのプロポーズ。どうしても思いを我慢できなくなっちゃったから、先にさせてもらったの」


 だから―


「だから、いつか桜子からもプロポーズしてくれたら嬉しいな!」


「なるほど……私にもチャンスをくれるなんて私の妻は優しいね」


「夫に花を持たせるのも妻の仕事なのよ」


 星の雫(ながれぼし)が降り注ぐ空の下、私たちは夫婦になった。

 これは形だけの婚約だ。

 私たちは結婚できる年齢でもないし、日本では女性同士のカップルの結婚は認められていない。

 でも、今の私たちは誰が何と言おうと夫婦だった。

 思いが通じ合っていて、ずっと一緒にいたいと思っているのだから、それでいいだろう。


「桜子、愛してる」


「私も愛しているよ、()()()()()!」


「もぉ!まあ、嬉しいからいいけど……」


 そうして、私たちは星々だけが見守る中、誓いのキスを交わした。

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