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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第五章) 私たちの新婚旅行

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(32) 願いと向き合う場所

 旅行二日目の昼。

 私たちは林に囲まれた一本道を歩いていた。


「桜子!あれ見て!」


 私は道の先にある鳥居を指差した。

 地図にあった写真と同じような鳥居であるため、あそこが目的地で間違いないだろう。


「あそこが雫の言っていた神社かい?」


「そうそう!参拝したら願い事が叶うって言われてる神社なんだ!」


「それは参拝するしかないな!」


 私と桜子は手を繋いで早足に神社へと向かった。

 近くに来てみると、鳥居は思っていたよりも大きかった。

 しかし、鳥居は苔やシダに覆われ、間にはクモの巣まで張ってしまっている。


「なんだか……ね」


 桜子が鳥居の状態を見てそう言葉を溢す。

 私も初めて来たため、ここまで寂れているとは思っていなかった。


「で、でも!中は綺麗かもしれないよ!」


「たしかにそうかもな!行ってみるとしよう!」


 桜子が鳥居の前で一礼したあと、クモの巣を払って私に絡まないようにしてくれる。

 私はクモがものすごく苦手であるため、とてもありがたい。


「ありがとう!」


 私も一礼をしたあと、桜子がクモの巣を払ってくれた空間をくぐり抜け、境内へ入った。

 鳥居にクモの巣が張るなんて、どれだけの間、人が来ていないのだろうか?


「ここって、本当にまだ管理されてるのかな?」


「宿のお爺さんが言っていた限りでは管理されているみたいだけどね……」


 私たちがそんな懸念を抱きながら、参道を歩いていくと、拝殿が見えた。

 拝殿は予想していたよりも綺麗な状態で、管理されている形跡があった。


「ここは比較的綺麗なんだな」


「本当だね。もしかしたら、鳥居はたまたまあんな風になってたのかも」


「なかなか管理が大変でのお……」


「そうなんですね……」


 こんなに広い神社であればそりゃあ管理も大変……うん?

 今、私は誰に返事をしたんだ?

 私が恐る恐る振り返ると、そこには誰もいなかった。


「桜子、もしかして今の声って幽霊かな?」


「いや、違うよ。もう少し下を見てごらん」


「下……?」


 私が視線を下げると、そこには私よりも頭二つ分くらい背の低いお爺さんがいた。


「うわ!」


 私はお爺さんの突然の登場に驚き、後ろによろめいてしまった。

 よろめいた私を桜子が支えてくれる。

 桜子に支えられた状態で、お爺さんの方をみると、そのお爺さんは神主さんの様な格好をしていた。


「この神社の神主さんですか?」


 私が質問すると、お爺さんはニコニコしながら答えてくれた。


「そうじゃ。ワシがここの神主で、ひとりで管理をしておる」


「この広い境内をひとりで管理するなんてすごいですね」


 私が称賛すると、神主さんはもふもふの眉を悲しそうに下げた。


「でも、ワシの年と身長じゃそろそろ限界でのお、手の届く範囲の管理はするんじゃが、鳥居なんかあの有り様じゃ」


 たしかに、神主さんは身長がかなり低いし、歳もかなりとっている。

 これでは鳥居がああなってしまうのも納得だ。

 人の来ない離島の神社であるが故に、清掃を雇う資金もほとんどないのだろう。


「もしよろしければ、私たちが清掃をお手伝いしましょうか?」


 桜子が神主さんにそう提案する。

 観光地のほとんどない離島で時間を持て余しているため、良い案だと私も思った。


「時間はたくさんあるので、私たちでよければお手伝いさせていただきます!」


 私がそう言うと、神主さんはもふもふの眉を嬉しそうに上げた。


「いいのかい?せっかくの旅行中なのに悪いねぇ」


「いえいえ!神社の清掃をする機会なんてなかなかないので、良い経験です!」


 そうして私たちは、神主さんから掃除道具を貸してもらい、清掃を始めた。

 私は小柄さを生かして狭い場所を掃除し、桜子は身長を生かして高い場所を掃除した。

 長い間掃除されていなかったためか、汚れや植物の侵食が目立ったが、それらが自分の手で取り除かれていく光景がなんだか嬉しくて、手が止まらなくなってしまった。

 私たちは気がつけば夕方まで掃除をしていた。


「これで大体綺麗になったかな?」


「そうだね、私たちにできることはやりきれたはずだ!」


 神社は私たちが来たときとは比べ物にならないほど綺麗になっていた。

 綺麗になった神社を見て、私たちが満足感でいっぱいになっていると、神主さんがやってきた。


「本当にありがとうねぇ。これで当分の間は綺麗に保てそうだよ」


「私たちも神社が綺麗になって嬉しいです。また来させていただきます」


 桜子がそう言うと、神主さんはすごく嬉しそうな顔をしていた。

 桜子が私の手を取る。


「最後に参拝してから宿に戻ろうか!」


「そうだね!」


 私たちは拝殿へと向かい、お賽銭を入れて二礼二拍手一礼をした。

 事前に、お互いに個人的なことをお願いしようと桜子と話をしていたため、私は本当に個人的なお願いをすることにした。


『両親に会えますように』


 私は両親のことが嫌いだ。

 でも、もしかしたらあの人たちにも何か事情があったのかもしれない。

 事の真相を知ることができれば、もしかしたらあの人たちのことを許すことが……。

 いや、きっと許すことはできない。

 でも、真実を知らずに嫌うのと、真実を知った上で嫌うとでは大きな違いがあるはずだ。

 きっと真実を知り、過去と向き合うことができれば、私はさらに成長することができる。

 だから―


「知りたい」


 私の口からそんな言葉が溢れていた。

 今の言葉を桜子に聞かれていないか不安になり、隣の桜子の方を見てみると、桜子はまだ目を閉じてお願いをしていた。

 桜子は一体何をお願いしているのだろうか。

 気になったが、願いは口に出さない方が叶うというため、私は聞かないことにした。


「それじゃ、帰ろうか!」


「うん!」


 私たちが参拝を終え、入り口の方へと戻ると、そこには神主さんが立っていた。

 神主さんが私たちふたりを見つめながら微笑む。


「ここを綺麗にしてくれたふたりの願いじゃ、きっと神様は叶えてくれるよ」


「ありがとうございます。これからも願いを叶えられるように努力します」


「私も頑張ります!」


 旅行の一日を使ってしまったが、自分の願いと向き合う良いきっかけになった。

 もしかしたら、神社は願いを叶えてもらうための場所ではなく、自分の願いと向き合うことで気持ちを引き締める場所なのかもしれない。

 願いは叶わないこともあるだろう。

 でも、叶うように努力しなければそもそも叶うことはないはずだ。

 だから―


「お互いの願いが叶うように頑張ろうね!」


 私は隣を歩く桜子にそう言って、微笑んだ。

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