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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第五章) 私たちの新婚旅行

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(30) 正解の無い人生

 部屋の中にパンケーキの優しい香りが広がる。

 私たちはふたりで肩を並べて、夕食用にパンケーキを作っていた。

 夕食にパンケーキと聞くと、普通の人なら驚くと思う。

 しかし、私たちにとっては週に一回のルーティーンになっていた。


「上手になったね!」


 桜子の作るパンケーキは、回数を重ねる毎に、良い出来映えに進化していった。

 初めは何度やっても黒焦げにしていたのに、今では綺麗な茶色に焼けている。

 きっと、桜子が楽しく、真剣に家事に向き合い続けてきた成果が出たのだろう。


「やはり、努力が報われるというのは嬉しいものだね!」


 桜子はそう言って笑顔を浮かべた。

 料理は作った人の心を反映すると言うが、桜子にとってのパンケーキは、正にそれだったのかもしれない。

 流れる月日の中で、桜子の作ったパンケーキからは焦げの黒が無くなっていった。

 そして、それと同時に彼女の心からも暗い影は減っていったように思える。

 

「桜子も変わったね」


 私の口からはそんな言葉が漏れていた。

 桜子はそんな私を見て微笑む。


「雫もすごく変わったと思うよ」


 出会ったばかりの私たちはボロボロで、お互いがいないと歩いていけないような、そんな状態だった。

 でも、今はお互いの足りないところを補い合いながら、私たちは笑顔で生きることができている。

 それは、普通の人たちにとっては当たり前の人生なのかもしれない。

 でも、私たちにはとってその当たり前は、ようやく勝ち取った努力の証なのである。

 私たちは成長したのだ。


「桜子!私は今、すごく幸せ!」


「私もだよ!」


 だからこそ、桜子が私から離れることを寂しがる気持ちも分かる。

 今まで、二人三脚の脚紐で結ばれた私たちは、お互いに軽く依存するような形で人生を歩いてきた。

 だから、その脚紐が突然外されるとなれば、不安な気持ちにもなるだろう。

 強がって言葉には出さないが、それは私も同じである。

 でも、今の私たちにそんな脚紐は必要ないと私は思う。

 だって私たちには、繋ぐ手もあれば抱き締める身体もあるし、交わせる唇だってある。

 お互いがお互いに縛られなくたって、私たちの心は繋がっているし、お互いを愛しているのだ。

 脚紐が足枷にならないように私たちは成長しなければならない。

 それが私たちの次のステップだ。


「桜子!大好き!」



  ◇◇◇



 私は少しだけ、あなたに依存してしまっているのかもしれない。

 たとえ、私が四年間フランスに行ったって、あなたの心が私から離れないということは、傲慢かもしれないが、確信している。

 でも、年に一度か二度は帰ってこれるかもしれないが、四年間はさすがに寂しい。

 学校で辛いことや嫌なことがあっても、家に帰ればあなたの笑顔が私を癒してくれた。

 冷たくなった心を、触れ合うあなたの体温が暖めてくれた。

 あなたが思っている以上に、私はあなたに依存している。

 それは子供の頃からの夢を諦めてしまってでも、手放したくない大切なもので―


「愛してるよ……雫」


 涙で歪む視界の中、私は隣で寝息を立てるあなたに、そっとキスをした。



  ◇◇◇



「どうして……泣いてるの?」


 私が、いつのように隣の桜子を起こすと、桜子の頬に涙が伝った。

 桜子は私の問いかけに答えた。


「分からない……」


 桜子はそう言うが、きっと私も桜子も分かっている。

 夢を諦めて欲しくないという私の身勝手な願いが、彼女の決断を揺さぶり、苦しめている。

 ごめんね……。


「そっか……おはようのハグ……する?」


「する……」


 触れ合う肌を通じて桜子の暖かな体温と思いが流れ込んでくる。


「好き……」


 桜子がポツリとそんな言葉を溢す。

 私は桜子の頭を撫でた。

 すると、桜子はボロボロと涙を流し、私への愛情を溢れさせた。


「好き」


「私もだよ」


「……好き」


「世界で一番好き」


「……すき」


「大好きだよ」


「す……っ!」


 私は、私への愛情を奏でる口を塞ぎ、それで返事をした。

 口に出さなくてもちゃんと伝わっているよと、桜子に教えてあげるように。

 優しく、優しく、キスをした。

 私たちは、そのまましばらくの間キスをしていた。

 桜子が私から離れる。


「すまない……恥ずかしいところを見せてしまったな」


「謝らなくていいの!桜子の気持ち、すごく嬉しいよ!」


 私はどうするのが正解なのだろうか。

 桜子のためを思って、行かなくていいと言うことは簡単だ。

 でも、それは本当に桜子のためになるのだろうか?

 私はそれをずっと考え続けている。

 これはきっと、答えのない問いだろう。

 だから―


「ふたりで納得のいく人生(みち)を見つけていこうね!」


「うん……」

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