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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第四章) 私たちの文化祭

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(28) 穏やかな時間

「わぁー!美味しそう!」


 私は、トッピング全乗せのふわふわパンケーキを前にして目を輝かせている。

 私がなぜ、いつもなら頼まないようなメニューを食べようとしているのかというと―


「ラコ?これで許してくれる?」


 桐谷さんがメイドカフェでのことを桜子に償おうとしたところ、桜子が代わりに私に一番高いメニューを奢るようにお願いしたのだ。

 桐谷さんの償いを見て桜子が笑顔になる。


「まあ、いいだろう!許すよ!」


 桜子はそう言って桐谷さんを許した。

 これで私と桐谷さんふたりの償いが終わったわけだ。

 その後、桜子はメニューに目を向け、一番高いメニューをもう二つ注文した。


「あれ?あなたも食べたかったの?さすがに二つも食べたら太るわよ」


「違うよ!私も渚に賄賂としてスイーツを奢る約束をしていただろう?それだ」


「覚えてくれていたのね。ありがとう」


「これでみんなお揃いだ!」


 少し待っていると私と同じメニューが全員の前に並んだ。

 桜子がオレンジジュースの入ったグラスを持ち上げて乾杯の音頭を取る。


「ふたりとも、私のために昨日まで頑張ってくれてありがとう!乾杯!」


「「乾杯!」」


 こうして私たちは、約束していた祝賀会を始めたのだった。



  ◇◇◇



 全員が半分以上パンケーキを食べ終えたところで、桜子が話し始める。


「そういえば、昨日の文化祭で自信がついたから、ちゃんと仕事の方のモデルも復帰したんだ」


「しばらく休んでいたのに仕事をもらえるなんて、ラコはやっぱり人気があるのね」


「本当にありがたい話だよ。これまでは私の容姿を生かして、海外雑誌のモデルの仕事をしていたが、担当者が日本の仕事もしてみないかとオファーをくれたんだよ」


「桜子も、ついに日本でデビューってこと?」


「そうなるね!」


 桜子が日本でデビューするのか……。

 嬉しくもあり、少し寂しくもある。

 だって、桜子の魅力を周りの人たちが知ってしまったら、私が一人占めできなくなってしまう。

 私がそんなことを考えていると、桜子が私の頭を撫でた。


「大丈夫だよ。私は雫の隣からいなくなったりしない。約束だ!」


 嬉しい言葉に思わず顔が赤くなってしまう。

 すごく嬉しい。

 でも―


「毎回思うんだけど、桜子って私の脳内を読み取れるの!?」


 桜子は、いつも怖いくらい私の思考を読み取ってくる。

 私ってそんなに顔に出るのかな?


「雫ちゃん!私が言うのもなんなんだけどさ、雫ちゃんは感情が顔に出過ぎちゃうタイプだと思うよ!」


「桐谷さんまで!」


「だって、桜子がモデル復帰するって話を始めたらすごく幸せそうな顔になって、その後急に暗い顔になるんだもん!」


 やっぱりそうなのか……。

 別に感情が顔に出ても困ることはないのだが、直した方がいいのだろうか?


「雫、私は君の感情豊かなところも大好きだから直そうなんて考えなくていいんだからな」


「もおぉー!またじゃん!」


 もう気にしてもどうしようもないらしい。

 私は諦めて会話を変えた。


「私からも一つ報告があるの!」


「なんだい?」


「前に将来の夢がないって話をしていたでしょ?でも、見つけたの!」


 私は緊張で目を閉じながら一気に言った。

 私の将来の夢それは―


「私は桜子の専属メイクさんになりたい!」


「いい夢ね!私も応援するわ!」


 私が勇気を出して言い終えると、まずは桐谷さんが応援してくれた。

 桜子は一体どう思っているのだろう。

 私が桜子の方を見ると、桜子は真剣な顔をしていた。

 桜子が私の目を見つめながら言う。


「雫は本当にそれでいいのかい?」


「うん!私は、私がそうなりたいって思ったから、そう決めたの!」


「でも、メイクさんもなかなかに厳しい世界だよ」


「分かってる。でも、私は桜子のお母さんに会って、かっこいいなって憧れたの。桜子がモデルに憧れた日みたいに、私の世界もその日に変わったの!」


 私は自分の熱意を桜子に伝えた。

 すると、私の熱意が伝わったのか、桜子は笑顔を見せてくれた。


「雫がそこまで本気で頑張りたいと思っているのであれば、私からは何も言うことはないよ!私も雫と仕事ができるのを楽しみにしている!」


「ありがとう!」


「それで、どういうプランでメイクさんになるのかは考えているのかい?」


「うん。来年まで勉強を頑張って、高卒認定試験を受けようと思ってる。そして、そのあと専門学校に行きたいと思う」


「現実的でいいと思うよ。お金は私がなんとかするから心配しなくていい」


 そう言ってくれるのはすごくありがたい。

 でも―


「桜子はお金を出さなくていいよ」


「でも……それならお金はどうするんだい?」


「ちゃんと親と話してみようと思う」


 私がそう言うと、桜子は目を見開いて言った。


「正気かい!?雫と君のお姉さんにあんなに辛い思いをさせた親にまた会いに行くなんて、私は恋人として認めたくない!」


 桜子は優しさで言ってくれている。

 きっと、私が親にまた辛い思いをさせられるのが嫌なのだろう。

 それはすごく嬉しい。

 でも―


「今までは親と向き合いたくなくて、見ないふりをしてきた。許せないし、大嫌いな親だよ。でも、そんな親でも私の親であることには違いないの。だから娘としてちゃんと向き合いたい」


「でも、それで雫が傷ついたりしたら私は……」


「そのときは、桜子が私を慰めて!私は、あなたがいればどんなに辛いことでも、苦しいことでも頑張れるから!」


 私の覚悟に、桜子が押し黙る。

 数秒の静寂の後、再び桜子が口を開いた。


「わかった……でも、辛いときはなんでも相談してくれ!私は何があっても雫の味方だから!」


 桜子はそう言って、了承してくれた。

 桜子の表情を見るに、心のどこかでは認めたくない気持ちがあったのだろうが、私の意思を優先してくれたのだろう。

 ありがとう。

 私たちの会話が一通り終わると、私と桜子の間の少しだけ重たくなった空気を桐谷さんが入れ替えてくれた。


「ふたりとも、自分の成長に向けてこれから頑張るってことね!私も頑張らないと!」


「そういえば、渚は将来の夢とかあるのかい?」


「料理の勉強をして、お父さんのレストランで働きたいと思っているわ」


「いい夢だ!きっと渚なら叶えられるよ!」


「ありがとう!」


 桐谷さんが料理人か……。

 すごく似合うだろうな。

 私たちはその後もいろいろな話をした。

 気が付けば、あれだけ量があったパンケーキも無くなっていた。


「そろそろ出ようか!」


「そうね!美味しかったわ!」


「ですね!」


 そうして私たちはカフェを出た。

 穏やかな時間が終わり、外に出るといつもの日常の匂いがした。

 これからは全員が自分の将来のために忙しくなる。

 こうしてゆっくりとできる機会も減るかもしれない。

 辛いことも苦しいこともたくさん待っているだろう。

 でも、きっと頑張れる。

 だって―


「私、すごく幸せだから!」

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