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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第四章) 私たちの文化祭

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(27) 美味しくなぁれ

「今日も賑わっていますね!」


「そうね!毎年、二日目が一番盛り上がるのよ!」


 私と桐谷さんは二日目の文化祭を一緒にまわっている。

 桜子がクラスの出し物を行う間、ふたりで見てまわることにしたのだ。

 昨日は雨の影響もあり、来場者が少なかったが、今日は雲一つ無い青空だったため、多くの人がやってきていた。

 気を抜くと人混みに埋もれて迷子になってしまいそうだ。


「ほら!雫ちゃん!迷子になっちゃうよ!」


 桐谷さんがそう言って手を差し伸べてくれる。

 私はそれに応えて、桐谷さんの手を取ろうとした。

 しかし、気を抜いていたため、一つミスをしてしまった。

 いつも桜子と手を繋ぐ感覚で、指を絡ませようとしてしまったのだ。

 桐谷さんは指を閉じてそれを拒絶した。

 でも、その拒絶は優しさだった。


「雫ちゃん、そこはちゃんとしないと駄目だよ!」


「すみません、癖でやってしまいました……」


「いいのいいの!次からは気をつけてね!」


 そう言って桐谷さんが普通に手を繋いでくれた。

 私もちゃんと、桜子の恋人という自覚を持たなければならない。


「そういえば、桜子はどんな出し物をしてるのですか?」


「ラコはメイ……あれ?これって言っていいのかしら?」


 メイ?

 なんのことだろう。

 どうして私に伏せるのだろうか?


「もしかして、桜子は私に来て欲しくないと思っているのですか……?」


 私がしょんぼりとしていると、桐谷さんが慌てて謝った。


「いやいや!違うの!言い方が悪かった!ごめんね!」


「いえ、大丈夫です。でも、どうして桜子は私に秘密にしたがるのですか?」


 私は桐谷さんに問い詰めた。

 すると―


「うーん……ラコには悪いけど、言っちゃおうかしら!」


 桐谷さんは悩む素振りを見せた後、話し始めた。


「ラコは雫ちゃんに来て欲しくないんじゃなくて、見られるのが恥ずかしいんだと思うの!」


「一体どんな出し物をしていればそんなに恥ずかしくなるのですか……?」


 私が疑問に思っていると、桐谷さんがニヤニヤしながら教えてくれた。

 その答えを聞くと、私も桜子に同情した。

 だってそれは―


「メイドカフェよ」



  ◇◇◇



「ご主人様!お帰りなさいま……せ……」


 メイドカフェの入り口で集客をしていた白髪の美少女が私たちの姿を見てフリーズする。


「ごめんラコ、雫ちゃん連れて来ちゃった!」


「来ました!」


 私たちの姿を見て、桜子は顔を赤くしてしてその場にへたり込んでしまった。


「恥ずかしいから、見られたくなかったのに……」


 桜子はとても可愛らしいメイド服を着ていた。

 きっと、短い間だがメイドとして働いていた私に、メイド服姿を見せたくなかったのだろう。

 でも、似合っていることに間違いはなかった。


「すごく似合ってるよ!」


「ありがとう……」


 私が称賛すると、桜子は恥ずかしさが振り切れたのか、顔を赤くしつつも私たちを案内してくれた。


「お帰りなさいませ……こ主人様」


 あれ?

 これなんだか面白いな。

 私は桜子の照れ顔を見てそう思ってしまった。

 そんな顔を見ていたら、からかいたくなってしまう。


「名前で呼んで欲しいなー」


「……っ!雫様……」


「よろしい!」



  ◇◇◇



「ごっ、ご注文はいかがなさいますか……?」


「えー、雫ちゃんは何が食べたい?」


「そうですねー、私はこの()()()()()()()()()()()が食べたいですね」


「いいねいいね!それにしよう!」


「うっ……」


 私の注文を聞いて桜子が苦しむ。

 でも、立場上断れないようで―


「かしこまり……ました。愛情を込めてお作りいたします」


 顔をひきつらせながらも笑顔?で注文を取っていった。


「ラコいい顔してたわね」


 桐谷さんがニヤニヤして喜んでいる。

 私も桜子をからかった張本人であるため、人のことは言えないが、桐谷さんはなかなかにゲスい顔をしていた。


「ちょっとからかい過ぎましたかね?」


「いいのよ!私たちは昨日、桜子のためにあれだけ頑張ったんだから、少しぐらいご奉仕してもらわなきゃ帳尻が合わないわ!」


 たしかに、言われてみればそうだ。

 昨日あんだけがんばった私たちなら、これくらいからかっても怒られないだろう。

 少しだけ気持ちが楽になった。


「桜子、どんな顔して料理を持ってきますかね?」


「たしかに!楽しみだね!」



十分後


「お待たせいたしました……雫さま、渚さま……」


「メイドさん、もっと声を張らないと誠意が伝わりませんよ」


「そうね、さっきから全然ラコの誠意を感じないわ」


 私たちのその発言によって、桜子の顔に浮かぶ感情が恥ずかしさから怒りに変わった気がした。

 あれ?

 これまずいんじゃ……。

 桐谷さんは家が違うからいくら煽っても平気だけど、同じ家に帰る私は……。

 私がそんなことを考えていると、桜子は怒りのこもった満面の笑顔で言った。


「お待たせいたしました!雫さま!渚さま!こちら愛情たっぷりオムライスになります!」


 満面の笑顔過ぎて怖い!

 私、帰ったら殺されたりしないかな?

 そろそろ煽るのを止めないとまずいかもしれない。


「じゃあメイドさん!オムライスに愛情を注入して!」


 桐谷さん!

 それ以上はまずいです!

 私が恐ろしさで胃をキリキリさせていると、桐谷さんの指示に従って桜子がオムライスに愛情を込めた。


「美味しくなぁれ!」


 目の前の桐谷さんが吹き出す。

 桜子の頬がピクピクしている。

 もうおしまいだ……。


「また何かあればお呼びください!」


 そう言って、桜子は裏の方へと下がっていった。


「いやー!楽しかったね!」


 桐谷さんが呑気に笑う。

 もちろん面白い光景ではあったが、私は素直に喜べない。

 私は家に帰ったら、きっとお仕置きされるだろう。


「一時の夢も料理もさめる前に食べましょう……」


「雫ちゃん!どうしたの急に!」


「こっちの事情です……」


 そうして私たちは注文した愛情(いかり)がたっぷり詰まったオムライスを食べた。

 そのオムライスはきっと、そこそこ美味しい冷凍食品だったと思う。

 でも、桜子の不気味な笑みが脳裏から離れなかったことで、ほとんど味はしなかった。



  ◇◇◇



「さーて、どうしてあげようかな」


「本当にごめんなさい……」


 家に帰ると、私は案の定桜子に詰め寄られた。

 壁と桜子の間に挟まれた私は、逃げ場を失って震えていた。


「えーと……どうしたら許してくれる?」


「そうだね、じゃあ!」


 桜子が寝室の方へと走って、何かを取りに行く。

 私が一時的に解放され、深呼吸していると、桜子があるものを持ってきた。


「ねえ、私のかわいいメイドさん。私に愛情たーっぷりのオムライスを作ってくれないかな?」


 桜子はそう言って、私にメイド服を差し出した。

 そんな桜子は、昼間の桐谷さんに引けを取らないゲスい顔をしていた。


「どうするのかな?」


 桜子がニヤッしてとこちらを見下ろす。

 もうメイド服を着ることは無いと思っていたのに……。


「かしこまりました。桜子さま!」



数十分後


「出来上がりました。どうぞお召し上がりください」


「ありがとう!でも、ひとつ大事な材料が足りていないようだよ」


「うぐ……」


 桐谷さん。

 私はあなたのせいでここまでの辱しめを受けています。

 今度会ったら、なにかスイーツを奢ってください。

 心の中の桐谷さんにお願いをした後、私は覚悟を決めて言った。


「美味しくなぁれ……」


「あれ?聞こえないな」


「美味しく……な!あ!れ!」


「もっと!」


「美味しく……なって……!」


 私はあまりの恥ずかしさに顔を手で覆った。

 それを見た桜子は一応合格を出してくれた。


「メイドさん、もう一つお願いをしてもいいかな?」


「はい……なんなりと」


「じゃあ、あーんってして」


 もうどうにでもなれ……。

 私は抵抗することを諦め、スプーンを手にした。


「承知しました。ご主人様、あーん」


「あーん!」


 私がオムライスを食べさせてあげると、桜子はご満悦の様子だ。

 そこで桜子は、初めていつも通りの優しい笑顔を見せた。


「はい!満足満足!無理を言ってしまってすまなかったね!」


 桜子がそう言って私に謝罪する。

 どうやら私のメイドさんごっこは終わったらしい。


「恥ずかしさで心臓が潰れるかと思ったよ……」


「初めから、雫が悪巧みしていたわけでは無いということは分かっていたよ。大方、渚主導の企みだろうとね」


「分かっていたなら先に言ってよ!」


「すまない、雫をからかうのが楽しくてつい」


「まあ、私も多少なりとも罪悪感を感じていたからいいんだけどね」


「じゃあ、これで貸し借りなしだ!」


 桜子が私にオムライスをあーんしてくる。

 私はそれを受け入れた。

 そのオムライスは昼間のものと違い、ちゃんと味がした。

 こうして文化祭が無事に終わり、私たちはようやく、いつも通りの日常を取り戻したのだった。

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