(22) 悪い娘
桜子の過去について聞いた日の夜。
私は、頭の中で自分の憧れるものについて考えながらベッドに倒れ込んだ。
ふかふかのベッドの感触が背中から伝わる。
いつもなら、このまま桜子とおしゃべりをして、しゃべり疲れて寝てしまうのだが、今日はいつもと状況が違った。
「あのぉ……桜子さん?」
目の前の女性に声をかける。
「どうしたんだい?」
私は今、桜子にベッドで押し倒されている。
いつもみたいに、ふたりでベッドに入っておしゃべりをしていたはずなのに、どうしてこうなった……。
「どうして私は押し倒されてるの?」
私は素直な疑問を桜子に投げ掛けた。
すると桜子は至って真剣といった表情で―
「雫、これは君の修行なんだよ」
と言った。
「修行?」
「ああ、君が私の顔を見ても照れずにメイクをできるようにするための大事な修行だ」
「そんなこと言って、自分がイチャイチャしたいだけじゃないの?」
「……バレたか」
桜子はそう言って、私の耳元に顔を近づけた。
桜子の暖かな吐息が耳に吹きかかり、ゾクゾクする。
「雫、愛しているよ……」
耳元でそんなこと囁かれたら、変な気持ちになってしまうではないか……。
こんなの刺激が強すぎる。
だからダメだ!
止めてもらわないと―
「今日はいつもよりいっぱい甘えてもいいの?」
私の自制心が仕事を放棄してしまったのか、私の口からはそんな言葉が勝手に出てきていた。
それを聞いた桜子は、私の頭を撫でながら優しく言った。
「ああ、もちろんだとも。君が……いや、私が満足するまで君を甘やかすよ」
桜子が私の頬に手を添えながら悪魔的なことを言う。
「じゃ、じゃあよろしく……」
私が流されるようにそう言うと、私に覆い被さる桜子の雰囲気が変わった。
なんというか……ものすごく色っぽい。
桜子が髪をかきあげて、私に迫る。
私と同じシャンプーのはずなのに、全然違ういい匂いがする。
「雫は本当にかわいいな」
私の視界が桜子の顔でいっぱいになる。
本当に綺麗な人だな……。
そんなことを思っていると、私の唇が塞がれた。
「…っん」
桜子の唇が私の唇を咀嚼する。
柔らかくて、暖かくて、そして優しい。
思考が溶けていく……。
そのままどれだけの時間が経ったのだろう。
「はぁ……」
唇が離れる。
私たちは呼吸を忘れて唇を重ねていた。
お互いに息を荒くして、見つめ合う。
しかし、そのインターバルはとても短くて―
「次はもう少し激しくいこうか」
そう言って、桜子の唇が再び私の唇に触れる。
しかし、今回のキスはいつものキスとは違っていた。
「……っ!」
私の唇を割って、何か熱いものが私の口内に入ってくる。
しなやかで、熱い、桜子の舌だ。
桜子の舌が私の舌に絡み付き、下品な水音をたてる。
桜子の舌に私の口内は丁寧にねぶりとられた。
「ぅはぁ……」
私の口内が一通り蹂躙されたあと、桜子の唇が離れた。
桜子と私の間に、唾液が橋を架ける。
頭がぼーっとして、思考がまとまらない。
「雫、私の理性はもう我慢の限界みたいだ」
「ふぁい……」
「君のことを食べてもいいかな?」
私……食べられちゃうんだ。
まあ、桜子にならいいや。
「いいよ……来て」
私がそう言って、身体の力を抜くと、桜子が私のパジャマのボタンをひとつひとつ丁寧に外していった。
ぷちっ、ぷちっという音と共に私の服がはだけていく。
私の夜用の下着が露になる。
「あれ?私とお揃いじゃないか」
「ごめん、洗濯するときに見て……お揃いにしたくなっちゃった」
「いや、嬉しいよ。ありがとう」
そう言って、桜子が私の小山に軽く触れる。
「んっ……!」
私は恥ずかしさと、身体が痺れるような感覚に悶えた。
そんな私の姿を見た桜子は、下品に舌なめずりして言った。
「ごめん雫、もう限界だ」
こうして私たちは、夜の闇に溶けるように―
ひとつになった。
◇◇◇
「ん……」
カーテンの隙間から入ってきた光が私の意識を覚醒させる。
身体がスースーして落ち着かない。
「そっか、私……」
昨日の夜のことを思い出して、顔が赤くなる。
してしまった……。
桜子としてしまった……。
大好きな人に初めてを捧げられたのだから後悔はしていない。
でも、どんな顔をして桜子と話せば良いのだろう。
私がそんなことを考えながら隣を見ると、隣には幸せそうな寝顔でスースーと寝息を立てている桜子がいた。
そのあどけない表情を見ていると―
「まあ、そんなに緊張することもないか」
そう思えてきた。
「ぅん?」
私の独り言に桜子が反応する。
「ごめんね、起こしちゃった?」
「いいや……大丈夫だよ。そろそろ起きないといけない時間だしな」
そう言って、桜子が身体を起こす。
被っていた掛け布団が滑り落ち、桜子の綺麗な身体が露になる。
それを見た私は、さっきの余裕を失って照れてしまい―
「そうだね、ちゃっちゃとお風呂入って、朝ごはんにしよ!」
そう言って、ベッドから降りて寝室から逃げるように出ようとした。
ドアノブに手を掛けた時、後ろから声が聞こえる。
「雫……嫌じゃなかったかい?」
そんなに不安そうな顔をしなくていいのに。
だって―
「大好きな人とひとつになれたんだから、私は幸せだったよ!ありがとう!」
私はそう言って、笑顔を浮かべた。
私の笑顔を見た桜子もとても嬉しそうに笑ってくれた。
「「これからもよろしく」」
図らずも私たちの口からは同じ言葉が出てきていた。




