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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第四章) 私たちの文化祭

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(21) 人生

「ところで、桜子はどうしてモデルになろうと思ったの?」


 私は、目の前でコーヒーを飲む桜子に問いかけた。


「それはこの前話したじゃないか、テレビでキラキラしたモデルを見て、憧れたからって」


「それはそうなんだけど!なんかこう……もっと詳しく聞きたいなって思ってさ!」


 絶賛自分の将来に迷い中の私は、なにか少しでも成長の糧を得たくて、桜子にそう尋ねた。


「なるほど、なら話すよ。少し長くなるかもだけどいいかな?」


「全然いいよ!桜子のこともっと知りたいし!」


 どんな話が聞けるのだろう。

 とても楽しみだ。

 私はそんなことを考えながらクッキーの箱を開けて、ふたりの間に置いた。

 ダイニングテーブルの向かいの椅子に座る桜子は少し物憂げな様子だ。


「桜子?大丈夫?」


「ああ、すまない。大丈夫だ」


 私が心配して桜子に声をかけると、桜子が謝罪した後に話し始めた。


「今から話すのは、私が私になった日の話だ」



  ◇◇◇



 私、星野 桜子は変な子供だった。

 周りの子供たちが、自分の意思でやりたいことをしている中、私にはやりたいことが一切なかった。

 だから、親はすごく困っていたと思う。

 親は私のためを思って、いろいろなことをさせてくれた。

 私は親に喜んでほしくて、やらされたことは努力して、優秀な成績を取った。

 でも―



 そこに私の心はなかった



 自分がやりたくてやったことなど、一つもなく、まるで親に勧められたことだけをこなす人形の様だった。

 でも、あの日人生が変わった。

 テレビのニュースを見ていると、その画面には周りの沢山の人から歓声を浴びる、一人のモデルが映っていた。

 その人は、まるで自分の進む道は私の道だとでも言うように見る者を釘付けにしていた。


「かっこいい……」


 私はそのモデルに脳を焼かれた。

 私はその日の夜、親に将来はモデルになりたいと言った。

 私が人生で初めて自分のやりたいことを話した瞬間だった。

 親もそれはそれは喜んでくれた。

 だから、次の日には子供用のかわいい衣装や小さなステージなどを用意してくれて、私が自由に使えるようにしてくれた。

 私はそれがとても嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。

 だから、私は幼稚園の友達に自慢した―


「私は将来、モデルさんになるんだ!」


 私の通っていた幼稚園は、少し良い家の子供が通う幼稚園で、子供たちの将来の夢はお医者さんだったり、大学教授だったりした。

 だから―


「桜子ちゃんは、そんな変なことを言ってママとパパに怒られないの?」


 無邪気な同い年の子にそう言われたとき、私は本気で落ち込んだ。

 私の将来の夢はそんなに馬鹿げているのだろうかって。

 私はショックでモデルさんの真似をするのを辞めてしまった。

 親もなぜ辞めるのか心配して、いろいろと聞いてきたが、私は口をつぐんでいた。

 親も私が話すのを嫌がるとそれ以上追求はせず、いつでもしたいことをしなさいとだけ言ってくれた。


『モデルの相原さんがコンテストで賞を受賞しました!』


 私が落ち込んでいても、テレビの中からは憧れのモデルの活躍が常に聞こえていた。

 その度にチクリチクリと胸が痛んだ。

 私がこうしてくよくよしている間にも、この人は努力しているんだって。

 私は自分と彼女の差に気付き絶望した。

 そんなときテレビの中の彼女のインタビューが聞こえた。


『相原さんはどうしてモデルになろうと思ったんですか?』


『理由はいろいろあります。でも、一番の理由はモデルになるために頑張ると決めたその選択、それが自分で選択したことだったからです』


 自分で選択したこと……?


()()()()()()()()だから大切だったんです!他の誰でもない自分の夢だから!自分の思いだから!』


 私はそのインタビューを見て涙を流した。

 私はなんて愚かだったのかと。

 周りの人の意見なんて関係ない。



 だってこれは私の人生だから



 その日から私は、自分の少しでもやりたいと思ったこと全てに手をつけるようになった。

 それが良いことか悪いことか、そんなことは知らない。

 努力すれば報われるなんて傲慢なことは言わない。

 でも、努力すれば成長することができる。

 努力しなければ何も得られない。


「私は将来モデルになるの!」


「桜子ちゃんまた変なこと言ってる」


「そうかな?私は頑張るのって何事でもとっても素敵なことだと思うの!」


「頑張っても、報われないことがあるってパパが言ってた」


「そうかもね!でも、自分が自分の努力に満足できれば、それは報われてるってことじゃないのかな?」


「……」


 私はその日から、周りの子供たちからは間違いなく浮いた。

 でも、それで良かった。

 私は私の人生(みち)を進む。

 私の憧れたあのモデルさんのように。



  ◇◇◇



「―というわけで私はモデルを目指したんだ」


 モデルになろうと思ったきっかけを細かく話してくれた桜子はそう言って話を終わらせた。


「桜子はそのモデルさんのおかげでいろいろなことに挑戦するようになったんだね」


「ああ、渚と友達になろうと勇気を出して話しかけたのも、努力して多くの賞を受賞したのも、全てはこの幼少期の経験がきっかけになっているんだ」


 桜子の話を聞けて、本当に良かった。

 私もいつか、そんな人生(みち)を見つけてみたい。


「桜子、ありがとう!すごく参考になったよ!」


「それは良かった」


「でも、どうしてさっきからそんなに物憂げな顔をしているの?」


「自分の中ではあまり良い思い出ではないんだよ。あのときはパパとママを困らせただろうなって」


「子供は親を困らせるのが仕事をだから、気にしなくて良いと思うけどな」


「私の言動のせいで家族も園内で浮くようになってしまったし、小学校に上がるときも渚と同じ小学校に行きたいと駄々をこねてしまった」


「でもきっと、なにも選択をしない桜子の世話をするよりも、自分の選択をして苦労をかけてくる桜子の世話をする方が、ご両親も嬉しかったと思うよ」


「そうなのかな……?そうだといいな!」


 そう言って、桜子はようやく明るさを取り戻した。

 桜子の過去を知れてよかった。

 きっと桜子ならスーパーモデルになれるに違いない。

 私もそんな桜子の隣にいるために頑張らなくては。


「私も頑張るぞー!」

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