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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第四章) 私たちの文化祭

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(20) 将来の夢

 私と桜子の仲直りも無事に終わり、桜子のダイエットが本格的に始まったわけだが―


「桜子……速い……」


 スポーツの賞を総なめするような桜子のランニングスピードに、運動が苦手な私がついていけるわけがなかった。


「すまない、少しペースを上げすぎたね。雫も無理して私についてこなくていいのだよ」


 桜子がそう言って私に謝罪する。

 本来であれば桜子だけダイエットすればいいのだが、私はこのように無理にでもついていこうとしている。

 なぜなら―


「私は一生桜子の隣にいたいの。そのためには少しでも桜子に近づきたいし、立派な人間になりたいの」


 私が頑張る理由。

 それは単純明快で、桜子の隣にいても恥ずかしくない人間になるためである。


「そうか!じゃあもう少し頑張ろうか!」


「……任せて!」


 そうして私たちは小休憩の後に再び走り出した。



数十分後


「疲れたぁ……」


 私がベンチでうなだれていると、桜子が労ってくれた。


「おつかれさま。今日はいつになく気合いが入っていたね」


 桜子がスポーツドリンクのボトルを手渡してくれる。


「ありがとう」


 そりゃ、そうだろう。

 なんたって、桜子とお揃いのランニングウェアをプレゼントしてもらったのだから、テンションも上がる。


「だって、このランニングウェアをプレゼントしてもらってテンション上がっちゃったんだもん」


「そうか、そう言ってもらえるとプレゼントした身としても嬉しいよ」


 ただ、嬉しさだけではカバーできないものもある。

 私がベンチから立ち上がろうとすると、足に激痛が走った。

 私はそのまま前によろけてしまった。

 まずい!転ぶ!

 と、思ったそのとき、私の身体が、優しく支えられた。

 前にいた桜子が私をキャッチしてくれたのだ。


「大丈夫かい?もしかして足を痛めたかな?」


 桜子が私をベンチに座らせながら、そう問いかけてくる。

 きっと、ランナーズハイに近い状態になって、今の今まで痛みを感じていなかったのだろう。


「ごめん、自己管理ができていなかった……」


 私がそう謝罪すると―


「謝らなくていいよ。私も初めはそんな感じで何度も痛い思いをしたよ」


 そう言って、桜子がベンチに座る私に背中を向けてしゃがみこむ。


「ほら、おんぶしてあげるからおいで」


 桜子がそう言って、自分の背中をポンポンと叩く。

 桜子も疲れているはずだ。

 だから、私だけ甘えるわけにはいかない。


「大丈夫だよ。桜子も疲れてるんだから無理しちゃダメ」


 私がそう言うと、桜子は少しだけ怖い顔をして、私を叱った。


「雫、それで君が無理して怪我が悪化したら、恋人の私はどう感じると思う?」


 うっ……。

 たしかに、私が無理をして怪我をしたら、桜子はおぶらなかった自分を責めるかもしれない。

 私が逆の立場でもきっと、なぜあの時……と後悔するだろう。


「分かった。じゃあ甘えさせてもらうね」


 そう言って、私は桜子の背中に乗った。

 桜子が立ち上がると視界がとても高くなった。

 いつも桜子はこんな景色を見ているのか……。

 と、私が感慨深く思っていると、桜子は微笑みながら優しく言った。


「それに、雫を背負って家まで帰れば私もより筋肉がつくからな!」


 そう言ったあと、桜子ははっとした表情になり、慌てて続けた。


「今のは雫が重いからって話じゃなくて、負荷の話だからな!」


「分かっていますよ!」


 桜子は本当に優しいし、思いやりに溢れている。

 大好き……。


「それじゃあ、帰ろうか!」


 そう言って、桜子が歩みを進めた。

 夕方の町には帰宅する学生が沢山往来していた。

 彼らにはきっと夢がある。

 憧れの会社に勤めたり、スポーツ選手になったり、学校の先生になったり―

 そして、目の前の少女もきっと、もっとすごいモデルになるという夢があるから頑張れているのだろう。

 でも―


「私は将来、何がしたいんだろう……」


 桜子の隣にはいたい。

 でも、それは私の夢ではない。

 ふたりの理想だ。

 私のしたいこと、それが……分からない。


「雫は、何か興味のあることとかはないのかい?」


 私の興味のあること……。


「ごめん、心当たりがない」


「いや、いいんだよ。これから一緒に見つけていけばいいさ」


 そう、私には将来の夢がない。

 二ヶ月前に人生を終わらせようと考えていたのだから、考える必要もなかったのだ。

 でも、桜子と出会って彼女と共に生きたいと思った。

 だからこそ生まれた悩みなのだ。


「なにか経験してみれば、興味が湧くものなのかな?」


「そうだね、経験はとても大事だよ。私も、小さな頃にテレビで見たモデルに憧れて、モデルを目指したのだからね」


「そうなんだ!」


 きっと、素晴らしいモデルさんだったのだろうな。

 私もそんな経験が欲しい。


「だから、雫も機会を見つけていろいろと経験してみるといいよ。それに、その方がきっと楽しいはずだ」


「たしかに……私、頑張ってみるね!」


 私はもっと能動的に動くべきなのだ。

 そう気付けただけでもとても大きい。


「では、経験の一環ということで雫に一つお仕事をお願いしようかな」


「お仕事?」


「ああ、私は今、文化祭でモデルウォークをするためにダイエットを頑張っているだろう?そのモデルウォークの時のメイクを雫にお願いしたいんだ」


「でも私、自分にすらほとんどメイクしたことないよ?」


「だったらなおさらだよ。いい経験になるはずだ」


 すっぴんでもこんなに綺麗な顔をしている桜子に私が落書きのようなメイクをしてしまうなんて―


「是非やらせてください!」


 私は自分の成長の糧を掴み取るために、手を伸ばした。

 きっと、桜子もそれを望んでいたから。


「それではよろしく頼むよ!私専属のメイクアップアーティストさん!」


「そう言われると緊張しちゃうじゃない!」


 そんな会話をしながら、私たちは夕方の町を進んでいくのだった。



  ◇◇◇



「難しい……」


 私の前にいる桜子の顔は子供が落書きしたようにぐちゃぐちゃになっていた。

 桜子に教えてもらったようにやっているつもりなのだが、なかなかうまくいかない。

 と、いうよりも―


「桜子の顔が良すぎて、近くで見るとドキドキして緊張しちゃう……」


「それは困ったな。でも、顔が良いのはどうしようもないからな」


「私が頑張って慣れるしかないんだよなぁ……」


「でも、慣れ過ぎられると雫をドキドキさせられなくなるからそれも嫌だな!」


 桜子はそう言うが、きっと、ドキドキしないようにするのは無理だろう。

 だって、好きな人の顔なんていつ、何度見ても幸せになれるに決まってる。

 でも、せっかく大事な仕事を任せてもらえたんだ。

 頑張らなきゃ!


「明日からも頑張ってみます」


「よろしく頼むよ。初日にしてはかなり上達したと思うから、明日からも一緒に頑張ろう」


 そう言って、桜子はメイクを落としに洗面所の方へと向かっていった。


「本当に、なんでそんなに綺麗なのよ……」


 私の口からはそんな独り言が溢れていた。

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