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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第三章) 私たちの夫婦喧嘩

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(19) 顔合わせ

「ねえ桜子、ひとつお願いしてもいい?」


 お風呂から上がり、私は桜子の髪を乾かしながらそう聞いた。


「ああ、もちろんだとも。なんでも言ってくれ」


「明日、私のお姉ちゃんに桜子を紹介させて欲しいの」


 私の結婚、そして幸せを願っていたお姉ちゃんだ。

 きっと、喜んでくれるだろう。


「緊張するな……なんだこの変態はって怒られないかな?」


「大丈夫よ、きっとお姉ちゃんも桜子のこと気に入るわ」


「そうだと嬉しいな」


 そんな話をしている間に、私は桜子の髪を乾かし終えた。


「ありがとう雫、交換だ」


 そう言って、桜子が私の後ろへまわる。


「よろしくね」


 ドライヤーを起動させながら、桜子が私に問いかける。


「雫のお姉さんは今どこにいるんだい?」


「ここから八駅離れた、山間の墓地で眠っているわ!」


「もしかして、滝のそばの墓地のことかい?」


「えっうん、そうだけど、知ってるの?」


「実は私の妹も今そこで眠っているんだ」


 なんという偶然か。

 でも、それなら都合がよい。


「もし、桜子がよければ妹さんに私を紹介してもらえないかな?」


「もちろんいいとも!妹もきっと喜ぶよ!」


 自分で言ったものの、やっぱり緊張するな……。

 妹さんに勝手にメイド服を着てたことを怒られたらどうしよう。


「なら、明日はちゃんとお洒落して行かないとだね!」


「そうだな!前に買ったお揃いで行くのはどうだい?」


「いいわね、あれなら涼しいし!お洒落できるし!」


 そうと決まれば―


「今日は早めに寝て明日に備えよう!」


「そうだね。今日は私にちょっかいかけちゃだめだよ、雫」


「もぉー!いつも先に仕掛けてくるのは桜子じゃない!」


「ごめんごめん!」


 そうして、私たちの仲直りは完全に終わったのだった。



  ◇◇◇



「ここは比較的涼しいね」


「山間だから空気が冷たくて過ごしやすいな」


 次の日、私と桜子はお互いの大切な人が眠る墓地へとやって来ていた。

 昔からの歴史ある墓地であるため、この当たり一帯の人は大抵ここで埋葬される。

 私のお姉ちゃんも前田家代々のお墓で眠っている。

 きっと、桜子の家系もこの辺り出身なのだろう。


「まずは入り口から近い、私のお姉ちゃんの方からでいい?」


「そうだね、そうさせてもらうよ」


 私と桜子は墓地の中を数分歩き―


「私のお姉ちゃんはここにいます」


 ひとつの墓石の前にたどり着いた。

 墓石には私の名字である前田の文字が見えた。

 他の誰かが前に来て掃除をしてくれていたようで、お墓自体はとても綺麗だった。

 私は持ってきたお花を花立に刺した。


「お姉ちゃん、久しぶりだね」


 もちろん、お姉ちゃんから返事が返ってくることはない。

 でも、きっとこの声はお姉ちゃんに届いているはずだ。


「今日は私の大切な人を紹介しに来たの」


 そう言って、桜子を私の隣に連れてくる。

 桜子は帽子を外し、挨拶をした。


「雪さん、はじめまして。雫さんとお付き合いをさせていただいている星野 桜子といいます」


 少しだけ声が震えている。

 きっと緊張してくれているのだろう。

 桜子がお姉ちゃんの存在を意識してくれていること、私はそれがすごく嬉しかった。


「雫さんと私は今、同棲をさせていただいています。将来は結婚も視野にいれています」


 桜子と結婚か……。

 出会った当初に話していた内容がだんだんと現実味を帯びていき、ドキドキしてくる。


「これまで私は、雫さんに何度も助けられてきました。雫さんがいなければきっと今の私はいません」


 それはこっちの台詞だよ。

 桜子があの夜に私を拾ってくれなければ、私もすでにこの世界にはいなかっただろう。

 本当にありがとう。


「私は雫さんから幸せをたくさんもらいました。だから、将来私は必ず雫さんを幸せにしてみせます。どうか、優しく見守っていていただけると嬉しいです」


 桜子がそう言い終えて、私の方を向く。


「ね!桜子は素敵な人でしょ?実は桜子、お姉ちゃんの孫弟子なんだよ!私が家事を教えてるんだ!」


 そう言って私は墓石に抱きついた。

 マナーとして良いのか悪いのか知らないが、そうしたかったからそうした。


「だから、安心して私のことを見ててね!私、きっと幸せになってみせるから!」


 私は目尻に涙をためながらそう言った。

 数秒後、私の目尻に浮かんだ涙は、そよ風に吹かれて飛ばされた。

 それはまるでお姉ちゃんが涙を拭ってくれたようで―


「ありがとうお姉ちゃん……大好きだよ!」



  ◇◇◇



 お姉ちゃんへの挨拶を終え、私たちは桜子の妹さんのお墓へと向かっていた。


「桜子のお姉ちゃんへの挨拶、すごく立派だったよ!」


「ありがとう!昨日の夜、どうしたら雫のお姉さんに認めてもらえるか一生懸命に考えたんだ!」


 桜子がそこまでしてくれたことが本当に嬉しい。

 かくいう私も実は同じで、昨日の夜ずっと頭の中で考えていた。

 だから、桜子の妹さんのお墓が近づいてくると緊張してきた。


「そんなに緊張しなくていいんだよ、雫」


 自分だって緊張してたくせに……。

 でも、ありがとう。


「メイド服と浴衣のお礼も言わなきゃだね!」


「そうだね、むしろ妹は使ってくれて喜んでいると思うよ!」


 そんな話をしていると妹さんのお墓に着いた。

 桜子がお墓の花立に花を刺しこむ。

 そして、先程とは反対に、桜子が話し始める。


梅衣(めい)、ひさしぶりだね。今日はお姉ちゃんの大切な人を紹介するよ」


 桜子がそう言って、私を紹介する。

 緊張するが、彼女としてちゃんと挨拶をしよう!


「梅衣さん、はじめまして。桜子さんとお付き合いをさせていただいている前田 雫です」


 梅衣と桜子か。

 とても素敵な名前だ。


「私は今、星野さんの家族のお家をお借りして、桜子さんと同棲させていただいています」


 そして、借りているものはまだある。


「あと、誠に勝手ですがメイド服と浴衣もお借りしています。どちらも手入れが行き届いていて大切にされていたのが伝わってきました」


 桜子が私の隣で、私のメイド服姿と浴衣姿の写真を見せる。

 持ち主に見せるのが一番恥ずかしいじゃん……。


「桜子さんにはいつも助けられてばかりです。ついこの前に喧嘩をしてしまいましたが、仲直りして、今はさらに仲が深まりました」


 私はそこで一度、深呼吸をした。

 そしてお墓に向かって頭を下げ―


「私は桜子さんと一生を添い遂げるつもりでいます。だから、私たちを応援していただけると嬉しいです」


 そう言った。

 私が話し終えると、桜子が頭を撫でてくれた。


「梅衣、雫はかわいいだろう?この子、実は家事がとても上手なんだ!私も練習して少しずつだが上手にできるようになってきたよ!」


 桜子はそう言って墓石に近づき―

 頭を撫でるように優しく撫でた。


「だから、心配しないでゆっくり休んでいてくれ、いつかまた、パンケーキを焼いて持ってくるよ」


 そして一拍の呼吸をおき、言った―


「愛してるよ」



 長いようで短い、緊張した一日だった。

 でも、お姉ちゃんの妹の雫として、桜子の彼女の雫として、一歩成長できた気がする。

 私はそれが―

 とても嬉しかった。

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