(18) 裸の心
私が浴室で頭からシャワーを浴びていると、後ろで扉が開いた音がした。
目を閉じていて何も見えない中―
「おまたせ」
そんな声が聞こえてくる。
声の主は足裏でぺちぺちと水音を生じさせながら私に近づき、遠慮なく私の後ろの風呂椅子に座った。
「雫の髪はすごく綺麗だね」
声の主はそう言って、私の後ろ髪を優しく触った。
声の主の指先が私の背中に触れる。
少し触れられただけなのに変な感じがしてしまい、落ち着かない。
いつも触れあっているはずなのに、状況が違うだけでここまで変わるのか。
「桜子、くすぐったい……」
私がそう言うと、桜子は笑いながら謝った。
「すまない、水で濡れた雫があまりに綺麗で、見惚れてしまったよ」
そう言って、桜子が私を褒める。
「そんなに褒めても何も出ないよ!」
「たしかにこれ以上ないほどに剥き出しになっているからね、その綺麗な身体が!」
「な、なに言ってるの変態!」
私はそう言いながら、顔を赤くして振り返った。
そこには産まれたままの姿の桜子がいて―
「えっ……エロ……」
私の口からは、思わずそんな下品な言葉が出てきてしまった。
お姉ちゃん以外の人の裸を見たことがない私にとって、モデルの裸なんて刺激が強すぎた。
しかも、それが自分の愛する人ならなおさらだ。
「雫の身体も十二分に魅力的だよ。私の理性を褒めてくれ」
そう言って、振り返った私の身体を見た桜子が顔を赤くする。
顔を赤くしてそんなことを言われたら、こっちも変な気分になってしまうではないか。
「お姉ちゃんごめんなさい……私は綺麗な女の子の裸に欲情してしまうような、はしたない女の子になってしまいました……」
そんな独り言が私の口からは漏れていた。
「なんだって?」
「なんでもない!さっさと身体を洗って湯船に入るわよ!」
私がそう言って、ボディーソープのボトルを取ろうとすると、桜子がその長い腕で私よりも先にボディーソープを取ってしまった。
そして、桜子は不敵に笑い―
「私が洗う!」
そう言った。
もうどうにでもなれ……。
「いいよ……じゃあ背中をお願い」
「任せて!」
そう言って、桜子が自らの手にボディーソープをいくらか出した。
桜子はそれを手のひらで泡立て、私の背中に塗り付けた。
桜子の指が、私の背中を優しく撫でる。
「くすぐったい……」
「子供じゃないんだから、我慢してくれ」
自分で洗うのは平気なのに、どうして人に洗ってもらうと……こんなにも変な気分になるのだろう。
「さ、桜子!もういいよ!あとは自分でするからさ!」
私が我慢の限界になり、逃げようとすると、桜子が私を逃げないように捕まえようとした。
しかし、桜子の手はボディーソープでぬるぬるである。
だから、ちゃんと掴めるはずもなく―
「ん……っ」
そんな声と共に、私の身体がピクリと震える。
滑った桜子の指が私の小山に触れ、変な声が出てしまった。
「ご、ごめん……」
桜子が気まずそうに謝ってくる。
まあ……今のは事故だし許してあげよう。
と思っていたのだが―
「いつまでそのまま触れてるの?」
「バレたか……」
そう言って、桜子が渋々離れる。
この人絶対に反省してない……。
「私が自分で前を洗い終わるまで、反省しながら待ってて!」
私はそう言いながら、そそくさと身体の前面を洗った。
私は自分の身体を洗い終え、身体の向きを桜子の方へと向けた。
「次は私の番!」
そう言って、私はたっぷりとボディーソープを手に取り、後ろを向いた桜子の背中に塗り付けた。
「ひゃ……っ」
桜子が彼女らしくない声を出す。
桜子の耳の先が赤くなっている。
あれ……これは楽しいな。
私は立場が変わった途端に、桜子の気持ちを理解してしまった。
「さっきの仕返しをしないと気が済まないから、少しだけ耐えてね」
私はそう言って、桜子の背中を撫で回した。
桜子のすべすべの肌を撫でていいるととても気持ちがいい。
「や、やぁ……っ」
お腹の近くを洗うと、少しだけ肉は付いているが、しっかりとしなやかな筋肉があることが分かった。
「っぁ……」
本当に綺麗な身体だな……。
こうやって、いつまでも撫で回したくなる。
「ぁめ……」
「どうしたの?」
「もぉ……だめぇ……」
桜子が顔を赤くして、涙目で訴えかけてくる。
そこで私は、自分が思わず調子に乗りすぎたことに気がついた。
「桜子、本当にごめん!私、調子に乗りすぎた……」
私は本気で謝罪した。
楽しくなりすぎて、桜子の気持ちを考えていなかった。
「嫌だったよね?無理やり触ってごめんね!」
私がそう謝ると、桜子が言った。
「嫌……ではないよ、ただ、初めての感覚にびっくりしてしまったんだ」
「本当にごめん」
「いや、最初に洗い合うのを提案したのは私だから気にしないでくれ。私も自分のターンのときに調子に乗ってしまったわけだし」
桜子は優しいから、おあいこということにしてくれた。
まあ、私も胸を(わりとじっくりと)触られたわけだし、おあいこの申し出をありがたく受け入れさせてもらおう。
「じゃあ、おあいこってことで!桜子も身体を流してお湯に浸かろ!」
「あ、ああ!そうだな!そうしよう!」
お互いに指摘はしなかったが、私たちの顔はきっと、両方とも真っ赤になっていたと思う。
◇◇◇
「暖かいねー」
「夏の湯船というのもいいものだなー」
私たちは湯船に浸かり、リラックスしていた。
桜子の足の間に私が座ることで、ふたりとも足を伸ばすことができている。
桜子の柔らかなモノが背中に当たっていて、また頭がピンクになりそうだが、さっきの洗い合いを経て進化した私の理性は、しっかりと我慢してくれていた。
耳元で桜子の声が聞こえる。
「やっぱり雫成分が無いと私は駄目だ……」
「私も桜子成分が無いと落ち着かない身体になっちゃった」
だからこそ、今後、今回みたいなことが起こらないようにちゃんと話さなければならない。
「桜子は私の言い方が少しきつく感じる?」
「普段は全然気にならないよ。でも、疲れているときとか、気が立っているときは少しだけ嫌な気持ちになることがあるかもしれない」
「なるほどね、少し気を付けてみる」
「ありがとう!でも、あまり気にし過ぎないで欲しいとも思っている。自然体の雫を否定するつもりはないんだ」
ありがとう。
その言葉がすごく嬉しい。
「じゃあ、気にし過ぎないで意識してみるね」
「ありがとう、よろしく頼むよ」
桜子が私の頭を撫でながらそう言う。
「私も桜子にひとつだけお願いがあるの」
「お願い?」
「うん、たったひとつだけのお願い」
「言ってごらん」
「私はこれからも、桜子が何度も同じミスをしたら怒っちゃうかもしれない。でも、落ち込まないで欲しいの。私は、決して桜子の努力をバカにしたいわけでも、指摘して笑いたいわけでもない」
「分かっているとも。雫が私のために怒ってくれているのは分かっていたし、バカにしているわけでもないって」
ありがとう。
「だから、桜子は私にいくら怒られても、ミスをしても、次は成功させてみせるって不敵に笑って見せて!桜子が頑張ればできる子だって、私は知っているから!」
「ありがとう……これからも頑張るよ、雫の恋人としてね!」
「私も桜子の隣にずっといたい、だから、頑張るね!」
私たちはそう言い合った後、お互いに向き直り、見つめ合った。
「「愛してるよ」」
そうして、私たちは唇を重ねた。




