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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第三章) 私たちの夫婦喧嘩

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15/42

(15) 覚悟

「と、いうわけなんだよ……」


『なるほどね、まるで結婚したての夫婦みたいね』


 私、星野 桜子は桐谷 渚に電話し、相談を聞いてもらっていた。

 私はどこで雫に嫌な思いをさせてしまっていたのだろうか。


『何か心当たりとかあるの?』


 心当たりか……。

 最近は距離感が近くなったこともあって、お互いに言動に遠慮がなくなっていた気はする。

 だから、雫のことを思いやれずに、傷つけてしまったのかもしれない。


「雫が私のために作ってくれたサラダをいらないって言っちゃったこととか、何回も注意されてることを毎回忘れて繰り返しちゃったりとか、雫が家事をしてるときに甘えたくなって邪魔しちゃったりとか―」


『うんうん……ラコ、あなた想像以上にだいぶやらかしてるわね』


 やっぱりそうなのか……。

 でも―


「私だって……家事に挑戦したり、辛いダイエットを我慢したりしてるのに、その度に雫が褒めてくれないで小言を言ってくるんだ」


『それで?』


「少しだけ……イライラしちゃった……」


 雫はきっと私の成長を願って小言を言ってくれている。

 それは分かっている。

 分かっているんだけど―


「もっと優しく言ってほしかった……」


 自分の甘えだってことは分かってる。

 むしろ、嫌な思いを限界まで我慢してくれていたのは雫の方だろう。

 私はなんて子供なんだろう。

 年下の雫の方がよっぽど大人だ……。


『だったら、雫ちゃんが帰ってきたらもう一度ちゃんとそう言いなさい』


「雫は帰ってきてくれるのかな?」


 私に愛想を尽かして戻ってこなかったらどうしよう……。


『あの子は絶対に帰ってくるわよ』


「どうしてそう思うんだい?」


『だって雫ちゃん……この私が引くレベルであなたのこと好き過ぎるんだもの!』


「そうなのかい?」


『そうよ!連絡する度にあなたの話が長文で送られてきてビックリわよ!』


 雫が私のことをそんなに……。

 このままじゃいられない!

 私は雫と―


「雫と仲直りしたい!雫に謝りたい!」


『よく言ったわね、私も力を貸すわ』


 渚が協力してくれるなら百人力だ。

 私が具体的にどうればいいのか渚に聞こうとしたとき―


『ごめん!親から呼ばれたから一端切るわね!』


 そう言って、渚が突然電話を切った。

 しょうがない。

 答えをすぐに求めるのではなく、まずは自分で考えてみよう。

 私は慣れない洗い物や洗濯物をしながら考えを巡らせることにした。


「私ももっと頑張らないと!」


 私は雫のいなくなった寂しい家の中で、ひとり覚悟を決めたのだった。



  ◇◇◇



 星野 桜子とその親友の電話が終わった少しあと―


「と、言うわけなんです……」


 私、前田 雫は桐谷さんに電話をして相談を聞いてもらっていた。


『なるほどね、まるで結婚したての夫婦みたいね』(二回目)


 桐谷さんの言葉に私は驚きつつも納得した。

 新婚の夫婦が、距離が近づいたことで些細な価値観の違いで喧嘩する例はよく聞く。

 第三者の視点から見ると私たちはそう見えるのか……。


「私が子供でした……」


 私の心の器がもっと大きかったら、こんなことにはならなかったのかもしれない。


「私がきつい言い方をしてしまうから、桜子が傷ついてしまったんだと思います」


『桜子の所に帰ったら、ちゃんとお互いが嫌にならない言葉遣いとかを話し合わないとね!』


 私がもっと早く、桜子と価値観の擦り合わせしていればこうはならなかったのかもしれない。

 桐谷さんの言うように、帰ったらすぐに話し合おう。

 そうすればきっと分かり合えるはずだ。

 私がさらに次の話題を相談しようとすると、桐谷さんが私の声を遮って私に質問した。


『深い話をする前に、雫ちゃんにひとつだけ聞いてもいい?』


「はい」


『雫ちゃんは今、ちゃんと安全な所にいるのよね?』


 桐谷さんは優しいな……。

 私なんかの心配をしてくれるんだ。


「はい、もちろんです!今は実家の方で心を落ち着かせています!」


『よかった!なら私も安心よ!』


「心配してくださりありがとうございます」


『それでそれで、何か他に相談したいことがあるの?』


「はい、私は―」


 私と桐谷さんはそのままかなり長い時間電話をしていた。

 人に相談をするだけで、かなり心が軽くなった気がする。

 桜子と仲直りする勇気も少しずつだが沸いてきた。


「桐谷さんも、私のお願いで頑張って仲直りしてくれたんだし、私も頑張らないと!」


 私は暗い自室の中で、ひとり覚悟を決めたのだった。



  ◇◇◇



 立て続けに掛かってきた二つの電話を終えた茶髪の少女は、ベッドの上で背中を伸ばした。


「いやー!もう新婚夫婦そのものじゃん!」


 ふたりには早く仲直りしてもらいたい。

 ふたりの間には笑顔が溢れていてほしい。


「私も雫ちゃんに恩返ししたいし、頑張らないと!」


 ふたりが覚悟を決めたのと同じように、()()()()()()も覚悟を決めたのだった。

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