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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第三章) 私たちの夫婦喧嘩

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(14) 夫婦喧嘩?

「というわけで、おふたりに大事な相談があるのだけど、いいかな?」


 桜子が目の前の私と桐谷さんに問いかける。

 もちろんふたりとも答えは―


「いいわよ、なんでも言いなさい」


「なんでもドンと来いです」


 私たちは初めて三人で顔合わせした日のように、ダイニングテーブルを囲んでアイスを食べながら話をしている。

 なんでも、今日は桜子から私たちに相談したいことがあるらしい。

 その旨を桐谷さんに連絡したとき、彼女は嬉々とした表情で家にやってきた。

 桜子に相談を持ちかけられたのが相当嬉しかったのだろう。

 私も桜子が頼ってくれるのは嬉しいので、気持ちはよく分かる。


「それで、相談ってなんなのよ?」


 桐谷さんが桜子に問いかけた。

 私も気になるので早く教えて欲しい。

 桜子が私たちにふたりの視線を浴び、重たい口を開いた。


「そろそろモデルの仕事を再開しようと思うんだ」


「へぇー、いいじゃない!」


「私もいいと思う!」


 私と桐谷さんの肯定的な意見が同時に聞こえる。

 それを聞いて、桜子はほっと胸を撫で下ろした。


「ふたりに協力してもらいたいことがあるんだ。力を貸してくれるかい?」


「「もちろん!」」


 桜子も最近は目に見えて自分を出せるようになってきている。

 自分の欲望に正直すぎるのも困るが、それは彼女としてちゃんと受け止めてあげよう。

 でも、実際に桜子が素を出してくれるのはとても嬉しい。

 きっと隣の桐谷さんも同じだろう。


「それで私は何をすればいいのかしら?」


 桐谷さんが桜子に問いかける。


「元々は参加しない予定だったから、期間内に申請していなかったのだが、うちの高校の文化祭にモデルウォーク企画があるだろう?それに飛び入り参加させてもらえないだろうか?」


 なぜそれを桐谷さんに相談するのだろう。

 実行委員会かなにかなのだろうか?


「それは桐谷とかいう生徒会副会長がこっそりと出場者リストにあなたの名前を書き足すかも知れないから、賄賂でスイーツでも奢ってあげなさい」


「ああ、そうさせてもらうよ。ありがとう」


「いいのよ、ラコのお願いならそれくらいするわ」


 桐谷さんが生徒会副会長か……。

 なんだかものすごくそれっぽく見えてきた。

 真面目だし、人付き合い上手そうだし、まさにうってつけの人材だろう。

 桜子が私の方に視線を向ける。


「雫には私の生活習慣の管理をお願いしたい」


「そんなことでいいなら、全然やるよ」


 私はもちろんと首を縦に振った。


「ありがとう。厳し……ほどよく縛ってくれ!」


「今、ラコの甘えが見えたんだけど気のせい?」


「桐谷さん、おそらく間違いじゃないです」


 私と桐谷さんは揃ってため息をついた。

 そこは口だけでも厳しくと言っとけよと。


「まっ、まあ、ふたりにお願いしたいのはそんなところだ」


 桜子はそう言って、強引に話を絶ち切った。

 まあ、別にお願いされなくても食生活に関しては厳しくする予定だったので都合がいいのだが。


「それじゃあ、最後に乾杯でもして気合いを入れますか!」


 桐谷さんが全員のグラスにオレンジジュースを注ぎ、乾杯の音頭を取る。


「桜子のモデル復帰に向けてみんなで頑張るぞぉー!」


「「「おぉー!」」」


 こうして桜子のモデル復帰に向けての日々が始まったのだった。



  ◇◇◇



 とある日の夕飯での出来事。


「桜子、さっきもごはんおかわりしたでしょ!」


 私がそう言って、桜子のごはん茶碗を持つ手を押さえると―


「もうちょっとだけダメ……かな?」


 桜子がそう言って、私の情に訴えてきた。

 なんでこの人はでかいくせに子犬みたいな顔をするんだ……。

 そんな可愛い顔をされたらダメと言いづらいではないか。


「うっ……駄目なものはだめ!桐谷さんとも約束したでしょ!」


 私はそう言って、桜子からごはん茶碗を取り上げた。

 桜子が残念そうに机に突っ伏す。


「だって雫のごはんがおいしすぎるんだもん……」


「私もそう言ってもらえると嬉しいから、いっぱい食べさせたくなるけど……ダメなものはダメなの!」


 このように桜子のダイエットはかなり難航している。

 桜子はもともとスラッとしているので、ダイエットなど必要なさそうに見えるが、本人曰く、かなり肉が付いてしまったらしい。

 つまり、これは本人たっての希望なのだ。

 桜子に無理をさせないように私もいろいろと考えてはいる。


「お米の代わりにこれ食べて」


 私は山盛りのサラダボウルを桜子に手渡した。

 これは私が桜子の栄養バランスを考えて一生懸命作ったものだ。

 しかし、桜子は―


「いらない……野菜はさっきのサラダで十分だよ」


 そう言って、私にサラダボウルを返してきた。

 せっかく桜子のためを思って作ったのに……。


「じゃあ、私が食べるからいいよ」


 私は桜子から受け取ったサラダをもりもり食べた。



夕食後


 私はリビングで洗い物をしながら、ひとりでもやもやしていた。

 私がもっとうまく献立を考えていれば違ったのかな?

 でも、私も頑張って考えたんだもん……。

 そんな考えが頭の中をぐるぐると回っている。

 これまで以上に私と桜子の距離が近くなったが故の悩みなのだろうが、最近はお互いの些細な言動で少しだけ空気が悪くなることがある。

 お互いに遠慮がなくなったという点ではいいのかもしれないが、こうしてもやもやするのはやはり辛い。


「今度ちゃんと話をしないと」


 新しい距離感には新しい配慮が必要だ。

 私にも、桜子にも。



  ◇◇◇



「桜子、お皿は使い終わったら水に浸しておいてって何度も何度も言ってるじゃない!」


「ごめん……でも、そんなに強く言わなくていいじゃないか!」


「私が優しく言っているうちに、桜子が気を付けてくれれば私も何も言わないわよ!」


「私だって……!私だってこれでも頑張っているんだ!」


 私たちは夏休みのとある日、お互いにため込んでいたものが爆発して、ついに喧嘩してしまった。

 どっちが悪いとか、そういう喧嘩じゃなくて、本当に些細なことが積み重なっていった末の喧嘩だった。


「私があなたのことをどれだけ考えて、考えて……!あなたのために努力しているか知っているの?」


「ああ、知っているさ、ありがたいと思っているよ!」


「じゃあもっと……」


 これ以上は言ってはいけない。

 私のことを思いやれなんて言葉、桜子のことを思いやれていない今の私が言うのはあまりに傲慢だ。


「少しひとりにさせて」


 私はそう言って、荷物を持ち玄関へ向かった。

 頭を冷やさなきゃいけない、そう思ったのだ。

 後ろから桜子が追いかけてくる。


「雫、外はもう暗くて危ないぞ!」


「私の心配じゃなくて、自分の心配をすれば?私、落ち着くまで帰ってこないからね。自分で何とか生活してよね」


 そう言って私は玄関から飛び出した。


「待て!雫!」


 悲痛な顔をして桜子が後ろから追いかけてきた。

 何とか逃げ切らなくてはならない。

 桜子を撒くように細い路地を進み―


「やっとひとりになれた」


 後ろから聞こえていた桜子の足音は聞こえなくなり、私は完全にひとりになった。

 何度も桜子から電話が掛かってくるが、出ないで放置する。

 これからどこへ向かおうか。


「帰りたくないけど、帰るしかないか」


 そう言って、私は家へと向かう道に足を向けた。

 もちろん桜子の家ではない、私の実家のことである。



二時間後


 電車を乗り継ぎ、私は約二ヶ月ぶりに自宅へとたどり着いた。

 家の電気はもちろんついていない。

 私が帰らなければ、誰もいないので当たり前である。

 私が玄関の鍵穴に鍵を差し込み、回すと、ささやかな抵抗感の後に鍵が開いた。


「ただいま」


 もちろん誰からも声は返ってこない。

 電気のスイッチを押したが、電気はつかなかった。


「そりゃあそうか」


 私はスマホのライトで足元を照らし、階段を上った。

 二つの扉が左右に見える。

 右が私の部屋、左が姉の部屋だ。

 私は自分の部屋のドアノブをひねり、中に入った。

 部屋の中からは懐かしい思い出の匂いと、昔の生活の息苦しい匂いがした。


「はぁ……」


 部屋の学習机の椅子に腰かけて、私は頭を抱えた。


「勢いで飛び出しちゃった……桜子、心配してるだろうな……」


 私の手に握られるスマホにはさっきからひっきりなしに桜子からの通知が表示されている。

 私は桜子と離れたいわけでは全く無い。

 でも、あのまま桜子と一緒にいたら、私はきっと桜子を傷つけるようなことを言ってしまっていた。

 それが嫌だから、私はこうして逃げ出したのだ。


「落ち着いたらちゃんと帰らなきゃ……」


 ちゃんと桜子にごめんねって謝りたい。

 そして、またふたりの楽しい生活に戻りたい。

 だから、今はひとりでゆっくりして気を落ち着かせよう。

 私はそう考え、机の上のアルバムを手に取った。

 アルバムにはお姉ちゃんと私の写真が沢山貼ってあった。

 二ヶ月前は、このアルバムを見ることが苦でしかなく、直視することができなかった。

 でも今は―


「ふふ、こんなことあったなー!」


 笑顔でお姉ちゃんとの思い出を振り返ることができた。

 小さな私がお姉ちゃんと料理をしている写真に、私が洗濯機に洗剤を入れすぎてアワアワになった脱衣所をお姉ちゃんが片付けている写真、リビングでおもちゃを広げてひとりだけの王国を作り上げている私の写真に―


「私も最初は何もできなかったんだな……」


 なんでこんな写真が残っているのかと、ツッコミをいれたくなるよなアルバムだった。

 でも、お姉ちゃんが残してくれたこのアルバムが、私の成長を実感させてくれた。


「ありがとう、お姉ちゃん」


 私はアルバムをパタンと閉じて、ブックラックに直そうとした。

 その時、手が滑ってしまいアルバムが机に落ちた。

 私が慌てて拾おうとすると一枚の写真がアルバムから滑りだしてきた。

 それは私が高校の文化祭でお姉ちゃんと撮った写真だった。

 写真の中の私は恥ずかしそうにお姉ちゃんの後ろに隠れて、写真に写っている。

 こんな写真、お姉ちゃんにこのアルバムをもらった時に入っていただろうか?

 私が写真を手に取ると、裏に何か書いてあることに気がついた。


『未来の雫ちゃんへ』


 それはその言葉で始まる私への手紙だった。

 どうしてこんなものが……。


『雫ちゃんはこの手紙を見るとき何歳になってるのかな?一緒に住んでるうちに見つけられちゃったらなんだか照れるな!』


 残念ながら、あなたに会えるうちに見つけることはできなかったよ……。


『この手紙を見るとき、雫ちゃんはもう結婚してたりしてね!家事も私が仕込んだからいい奥さんになること間違いなしだよ!』


 それは……ありがとう。

 結構助かってる……。


『早く雫ちゃんの旦那さんに会いたいなー!きっと素敵な人だよね!もしかしたらこれを読んでる段階で、もう会ってるかもしれないけど!』


 ごめんね、まだ紹介できてなかった。

 仲直りしたら絶対に紹介するからね。


『みたいな感じで、未来の雫ちゃんに向けたちょっとしたサプライズでした!』


 お姉ちゃん、サプライズ好きだったもんな。

 まさかこんなのを仕込んでいるとは思ってもいなかったけど。

 私はそんなことを考えながら最後の一文に目を向けた。


『雫ちゃん、愛してるよ!辛い環境で育った私たちだけど、私たちにも幸せになる権利はあるの!胸を張って自分の幸せのためにこれからも頑張ってね!』


 ありがとう。

 私も愛してる。

 私は大切な人と幸せになってみせるよ。


『雪おねえちゃんより』


 私の瞳からは暖かな涙が溢れていた。

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