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あなたの人生を私に下さい  作者: タモリン
(第二章) 私たちの親友

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(10) 信頼

 桜子と桐谷さんが喧嘩してから二日が経った。

 しかし、ふたりの状況は未だに変化していない。

 私の目の前にいる桜子は、ソファーの上でスマホの画面を見ながらうなだれている。


「渚にいくら連絡しても返事がない……」


「幼馴染なら、家も知ってるんじゃないですか?」


「行ったはいいものの、明らかに居留守されてしまった……」


「それは困りましたね……」


 桐谷さんの様子からして、彼女はかなり傷ついていたと思う。

 桜子に会いたくないと考えるのもおかしなことではないだろう。

 私は桜子の息抜きにアイスを渡そうと冷凍庫を開けたが、そこには一本もアイスの在庫は無かった。


「昨日までまだたくさんあったアイスの在庫は一体どこに消えたんですかね?」


 私が犯人の方を見ると犯人はこう供述した。


「すまない、悩みながら食べていたらつい……」


「桜子さまが太っても、抱き心地がよくなるだけなので私はいいですが、桜子さまがモデルに戻る気があるのであれば、ちゃんと自己管理しないといけませんよ」


「善処します……」


 私は桜子にお説教のようなことを言った後、自分も食べたかったため、仕方なしにアイスを買いに行くことにした。

 ちょうど、他の食品も切らしていたところであったため、まとめて買いに行くのに都合がよかった。

 私はお気に入りの服に着替え、マイバックとお財布を持って出かける準備をした。

 後ろから桜子が私に声をかける。


「重たいだろうし、私もいっしょに行こう」


「桜子さまは、いつ桐谷さまから連絡が返ってくるか分からないんですから、家でスマホとにらめっこしておいて下さい」


 私がそう言うと、桜子は少し心配そうな表情をしたが、頷いた。


「わかった、そうさせてもらうよ」


 そんな会話をしているうちに、買い物に行く準備を終えた私は、玄関の方へと向かって行った。

 後ろから、いつも通り桜子が近づいてきたため、私は桜子といってきますのハグをした。


「やっぱり、出会ったばかりの頃より丸くなってますよ、桜子さま」


「雫の作るごはんがおいしすぎて食べ過ぎてしまうんだ」


 なんか、私が出会った当初に妄想していたことが現実になりつつある気がして、もっと健康的な食事を作らなきゃと気を引き締めた。


「ちゃんと、アイスもご飯も自制しなきゃだめですよ、子供じゃないんですから」


「はい……」


 そんなとりとめのない会話を抱き合いながらした私たちは、最後にギュッと力強く抱擁した後、離れた。


「いってらっしゃい、熱中症には気を付けるんだよ、雫」


「気を付けていってきますね」


 そんなやり取りを桜子として、私は玄関から外に出た。

 外はこれまでで一番の暑さで、セミの大合唱がさらに精神的な暑さも加速させていた。


「あっつぃ……」


 さすがに暑すぎて、私は値段を気にせず近所のスーパーへと向かうことにした。

 これがかえって不味かった。

 近所のスーパーではチラシに無いセールをしていた。

 私はラッキーと思い、お得な商品をついつい買いすぎてしまった。

 その結果、かなりの量の荷物になってしまい、ひとりで持つのが大変なことになってしまった。

 スーパーの中はエアコンが効いていたため、この量を持って移動しても全然平気だったが、外に出ると話は違った。


「これまずいかも……」


 あまりの暑さと重さに頭がくらくらしてきた。

 今からでも桜子を呼ぶべきだろうか?


「いやいや、桜子さまはもっと大切なことを頑張ってるんだし、私もこれくらい頑張らないと!」


 

そう自分に宣言した数分後


「っ……あぅ……」


 私は情けないことに、自宅から数百メートル離れた路地で倒れてしまったのだった。



  ◇◇◇



 食器が擦れるような音に眠りを妨げられ、私の意識が覚醒する。


 見慣れない天井、自分のものではない香りのするベッド。


 ここは一体どこなのだろうか。


「いや、デジャブですか……」


 私が目を覚ますと、そこは自分の全く知らない場所だった。

 いつも桜子と一緒に寝ているベッドでもない。

 かといって、私の本当の家のベッドでもない。

 いや、そもそも私の家は布団だったのだが。


「あっ、起きたみたいね」


 私の隣から声が聞こえる。

 聞き覚えのある声だ。

 この声は―


「桐谷さま!?」


 私は気付かないうちにラスボスの前にいた。

 なぜ?どうして?という疑問が頭の中を埋め尽くす。 


「そうよ、雫ちゃんが記憶喪失とかしてなくて良かったわ」


「記憶喪失?ここはどこなのですか?」


「私の家よ!」


「どうして私は桐谷さまの家に……」


「私が玄関から出たら雫ちゃんが家の前で倒れていたから、慌てて救護したのよ」


 そうか、私は荷物を持ちすぎて、力尽きて……。

 桐谷さんが見つけてくれなければ、私は死んでいたかもしれない。


「本当にありがとうございました」


「いいよ!いいよ!気にしなくて!」


 桐谷さんが私に微笑みながらそう言う。


「せっかくふたりきりで話せる貴重な機会だし、アイスでも食べながらゆっくり話そうよ」


 あれ?桐谷さんは私のことを嫌っていないのかな?


「あの……」


「どうしたの?」


「桜子さまがご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした!」


 私はベッドに頭を擦り付ける勢いで、恋人の迷惑を詫びた。

 すると、桐谷さんは怒るわけでもなく、かといって柔らかに微笑んでくれるわけでもなく、静かに言った。


「別に雫ちゃんが謝らなくていいよ」


「でも……」


「というか、本当は誰も悪くないんだよ、悪いのは……私だけ」


「そんなこと……」


「あるんだよ」


 桐谷さんの目はとても悲しそうだった。

 しかし、そこで一度桐谷さんは手をパンッと叩き、話を区切った。


「雫ちゃんは何味のアイスが好き?」


 私は桜子と暮らすようになるまで、アイスなどの嗜好品を楽しむ機会はなかった。

 だから特段好みはないのだが―


「フルーツ系の味が好きです」


 私は取り敢えず、一番最初に頭に浮かんだ味を答えた。


「そう、じゃあこれとかどうかしら?」


 桐谷さんが、私にアイスを手渡してくれる。

 二本の棒が刺さったミカン味のアイスだった。

 なぜ二本も棒が刺さっているのだろう?

 私がそんなことを考えていると、私が持っていない方の棒を桐谷さんが掴んだ。


「さあ、どっちが沢山のアイスを食べられるか勝負だ!」


 なるほど、これはそういうことを楽しむアイスなのか。

 私は桐谷さんの意図を汲み、アイスの棒を持って桐谷さんと向かい合った。


「それじゃあ、行くよ!せーの!」


 私の棒に付いたアイスは全体の六割、桐谷さんは全体の四割となった。

 これはつまり、私の勝ち?


「負けちゃったー!雫ちゃんセンスあるよ!」


「ありがとうございます」


 その後、私と桐谷さんはお互いが勝ち取ったアイスを静かに食べていた。

 アイスは熱中症気味の私の身体を内側から冷やし、楽にしていった。

 私がアイスの冷感に心地よさを感じていると、桐谷さんが呟いた。


「私は昔から、桜子とこんなくだらないことをやって、遊んできたの」


「桜子さまからもお聞きしました」


「でもあの子、妹さんが亡くなってから汚れた部屋に引きこもりがちになっちゃって、学校以外で会う機会も少なくなってしまったわ」


 そこで一度言葉を詰まらせた後、桐谷さんは少しうれしそうに話を続けた。


「でも、ある日を境に桜子が昔みたいに明るくなったの」


「はい」


「今思えば、それはきっと雫ちゃんと出会ったからだったのよね」


 私と出会って桜子がどう変わったかいまいち実感できていなかったが、気付いていないだけで私も桜子を変えることができていたのだ。

 私はそれを聞いて内心とても嬉しかった。

 しかし、そこで桐谷さんの表情が曇った。


「桐谷さま?」


「でも、ラコを変えたのは私じゃなかった……ずっと一緒にいたのに痛みを分かってあげられなかった……」


 それは、違う。

 桐谷さんと一緒にいる桜子の様子を見ていたら私も分かる。

 桜子がどれだけ桐谷さんに支えられてきたのかを。

 だから、そんなこと言わないで欲しい。


「でも、桐谷さまがいなければ私は桜子さまと出会えませんでした」


「どういうこと?」


「それは―」


 私は桜子との出会いと、出会ってからのことを一つも隠すことなく話した。

 桐谷さんには言ってもいいと思えた。

 桐谷さんが桜子を支えてくれていなければ、おそらく彼女はもっと早いうちに自殺に追い込まれていただろう。

 だから本当に、私と桜子が出会えたのは桐谷さんのおかげなのだ。

 私の話を全て聞き終えた桐谷さんは顔を覆い、涙を流した。


「どうして私は……自殺に追い込まれるまでに弱っていたラコに気付いてあげられなかったのかしら……」


「あの人は何でもかんでも隠すので、桐谷さまがお気になさることは……」


「やっぱり、ラコは私に大事なことを隠すのね……」


 桐谷さんが拳を握りしめて、悔しそうにする。


「私はラコに相談をしてもらえるくらい信頼されていなかったのかしら……?自殺のことだってそう、雫ちゃんとの関係のことについても……」


 桐谷さんが椅子から崩れ落ちる。

 桐谷さんが床にへたり込みながら続ける。


「ずっと、ずっと、ずっと、ずっと一緒に笑って、泣いて、喜んで、苦しんで、歩んできたのに私はラコに信頼されていなかったのね……」


 そんなわけない。

 だったら桜子は桐谷さんには頬を張られたとき、あんな顔をしていない。


「桐谷さま、それは違います」


「どう違うって言うのよ!」


 桐谷さんが声を荒げる。


「桜子さまは桐谷さまが本当に大切だからこそ、相談するのを躊躇ったんだと思うんです」


「なによ……それ……」


「自分が大切な幼馴染みに心配を掛けるわけにはいかないって悩んでいたから、ひとりで抱え込んでいたんです」


「相談してくれれば私だって……」


 本当に、本当にあの人は……

 なんだか私もイライラしてきた。


「本当にそうです!あの人は駄目な人なんです!どうして優しい幼馴染みにこんな顔をさせるまで、何もアクションを起こさないんですか!」


「雫ちゃん……?」


 私の豹変ぶりに、桐谷さんが絶句する。

 私は驚かせてしまって申し訳ないと思いつつも続けた。


「私も一緒に暮らすようになってから散々思い知らされましたよ!口下手だし、なかなか弱みを見せないし、いつもどこか気を張り詰めているように見えるし!ずっとかっこつけてるし!仮にも信頼してると言った私の前ではもっと甘えてくれたっていいのに……!」


「……」


「でも、そんな桜子さまだから私はそばで支えたいと思ったんです!」


「……」


「きっと、桐谷さまもそうなのではありませんか?」

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