生贄
理不尽・・・。
木の柱に縄でくくられた、妙はぐったりと俯き、すべてを諦めた。
「チッ、てこずらせやがって」
村の若い衆が捨て台詞を吐くと、村長が彼女を諭すように言った。
「妙よ。お主はこれから村を救う英霊となるのじゃ」
妙はゆっくりと顔をあげると、キッと村長を睨んだ。
「おおこわ・・・妙、どうか安らかな心で村の安寧を祈っておくれ」
村長はそう言うと、周りをみて頷き一同はその場から去った。
「糞っ!」
妙は村人の後姿に叫んだ。
今年は水害の多い年だった。
だからといって、昨日、いきなり私を水神様の生贄にすると決めて・・・。
逃げようとしたら、ボコボコに殴られ連れ戻された。
気を失っている内に、この有様・・・。
海の満潮が近づき、河口近くこの川の水位はいずれあがり・・・。
私は死ぬ。
・・・そんなのは嫌だっ!
なんで、なんで理不尽なっ。
こんなことしたって、絶対に水害はおさまらない。
だって・・・姉さんも生贄にされて・・・水害は収まらなかったじゃない・・・。
・・・足りないって・・・そんな馬鹿なことがあるかよ。
馬鹿だ、本当に阿保だ。
人って。
なんだ?なんなんだ!
徐々に水位があがり、妙の顎まで水が迫って来た。
殴られて口の中が傷だらけ、鉄の味をかみしめ彼女は恨む。
(ちきしょう)
やがて、水は妙を飲み込んだ。
・・・・・・。
水の中で妙は気配を感じた。
目を開くと、眼前に水龍がじっと彼女を見つめている。
「娘よ」
「・・・・・・」
「人が憎いか」
「憎い」
「そうか・・・村の安寧は望まぬか」
「誰が・・・私の命と引き換えにするロクでもない奴らに」
「・・・ならば」
「私は復讐したい」
「そうか」
水龍は妙の願いを聞き届けた。
妙は水龍に飲み込まれ一体となった。
水柱が次々と勢いよくあがり、村を襲った。
未曽有の水により、一瞬で村は流され壊滅した。
そう。