甕
作り話かそれとも・・・。
さて、ちょっとむかしの話をしましょうか。
なにせ、もう20年以上も前となります。
曖昧な感じで脚色も入ってしまうかもしれませんが・・・。
私は以前、発掘の仕事をしていました。
そうそう、遺跡の調査です。
ある企業が用地買収をして、その土地に工場をたてることとなり、その場所に文化的遺産はないか、確認の発掘調査をすることになりました。
八女という土地は磐井の反乱でも知られる通り、古墳の多い場所で、私の携わった発掘調査でも、弥生時代とか古墳時代の遺跡が多かったのです。
ところが、今回は近世墓の調査となりました。
近世墓・・・。
正直、気が進まないのは、みんなそうでしたね。
ユンボでその時代の土を掘りおこすと、正方形型に土の色が変わります。
これが、何基もでてきました。
そう、お墓でした。
そのほとんどが土へと還っていて、遺物がチラホラあるくらいでした。
ところが、一基だけ甕棺が綺麗にでてきました。
そのあと、数日、雨が降ったのかな?
水中ポンプで水をかきだし、いよいよ甕棺を調査することになりました。
先輩責任者の指示に従い、パートさんや臨職の私は、甕の石蓋にロープを巻きつけ、みんなで引っ張ります。
バキっと途中で石蓋が真っ二つになると、先輩は土壙の中へ潜り込み、中を覗き込みます。
「おる」
と、一言。
みんなの表情が強張ります。
それから、先輩が石蓋を外すと、綺麗な水が並々と入っていました。
頑丈な蓋でしたが、雨水か地下水が浸み入ったのでしょうか。
バケツで水をかきだすと、先輩が取り上げます。
黒色の骨、そして頭蓋骨の中には、なんか残っているようです。
それとお酒とお猪口、呑兵衛さんだったのでしょうか。
パンコンテナに引き上げ、お墓は丁重に弔いました。
しばらく調査用のプレハブの中にパンコンの中に呑兵衛さんが入ったままでしたので、ちょっと、入るのがちょっと嫌でしたね。
携わった発掘調査の中でも異質だったんで、まだ覚えています。
・・・のち、この仕事を辞めて数年後に、この場所で違う仕事をすることになるとは、それに気づいた時、なんとも不思議な思いがしました。
ニヤリ。