梁川
これにて完結。
ここは梁川。
桟橋の際にあぐらをかいて、煙管を吹かしている船頭は、その手を止めて言った。
「いらっしゃい。よく来たね。こんな日に・・・」
舟はゆっくりと川を進みはじめた。
ひとりだけのちいさな乗客はものを言わない。
「坊主、愛想無いなあ・・・あのさ、今はお盆だよ。知ってるか?ご先祖様が帰って来る大事な日に水遊びしちゃいけないという言い伝え」
船頭は出来る限りの優しい口調で喋った。
「・・・うん」
ちいさく頷く少年。
「なんだ喋れるじゃないか。まあ、川下りが水遊びなら、オイラだって遊んでいる訳か、こりゃまいった」
船頭はそう言うと笑い、少年を和ませようとした。
少年はずっと思っていたことを口にしようとする。
「・・・ぼく」
「ああ、湿っぽくなるのは性にあわねぇ。梁川って名は今は昔だしな、ここはどこでもないところ三途の川の渡しだ」
「えっ!」
「おお、その様子じゃ、ここがどういうとこだか知ってるようだな」
「ぼく死んだの?」
「・・・うーん、オイラにはお前さんが死んだようには見えないぜ」
「だって、これ三途の川を渡っているんだよね」
「まあ、渡っているちゃあ、渡ってるような」
「はっきりしてよ」
「坊主、言うね」
「だって・・・」
「お前さんは、どうしたいんだい」
「ぼくは・・・」
「お盆にひとりで川遊びなんてするんじゃなかったな」
「・・・・・・」
「坊主」
少年は大粒の涙を流しはじめる。
「ふん」
船頭は竿を川底に突き立てると、舟の動きが止まった。
「いいか、坊主、こっちじゃない反対側の岸を見ろ」
「見えない」
「見えないじゃない。よく見ろ。誰がいる?」
「あっ!・・・お父さん、お母さん、ケンちゃん、アカネちゃん、みんないる!」
「よし、お前はどうしたい」
「帰りたい!」
「いいぞ。そのまま強く願え」
「うん」
「・・・本当は片道なんだけどな。今日は特別Uターンサービスだ」
船頭は竿を使い、ゆっくりと舟を旋回させる。
舟はゆっくりとゆっくりと岸へと近づいた。
少年は舟から飛びあがり岸へ着いた。
「よし」
船頭は頷く。
「おじちゃん、ありがとう」
岸辺の少年は礼を言う。
「ああ、もう、しばらくはこんなとこ来るなよ」
船頭は微笑むと舟を動かし、川向う白靄の中へと消えていった。
そして、
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
少年は目を覚ました。
今年は堪能しましたぞ。
完結までお読みいただき感謝です。




