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あの時
うーん。
私は激しく後悔していた。
あの時、雨宿りで地下街に降りなければと・・・。
皆が慌ただしく階段を駆けのぼっているのを注意すればよかった。
誰かが大声で私を呼んでいるのを無視しなければよかった。
こんな大事なるとは・・・。
どうしよう。
どうすることもできない。
誰もいない地下街で私ひとり、ただひとり。
地上からは水が流れ、どんどん地下街を浸水していっている。
膝まで浸かった足元を見て溜息をつく。
あの時、私の手を引いてくれる人がいれば。
私は耳が聞こえない。
だから、助けてほしかった。
だけど、そんなの分からないよね。
私がもっと注意していれば。
悔しいな。
悔しいよ。
生きたい。
生きたいよ。
こんなの夢ならいいのに。
夢かしらん。
きっとそうだ。
私は見た。
そっと差し伸べられる手。
今度こそ私は、しっかりとその手を握りしめた。
そうなんだ。




