年寄りの冷や水
いやあ。
私は孫とともに川に来ていた。
小1の孫と安全な浅い川で水遊びをしておったんじゃ・・・ところが。
「じいちゃん、あれ」
川隣りには、水路があり奥に水門が隣接していた。
その水路には橋がかけられており、中学生ぐらいの子ども達が橋の上から度胸試しとばかりに眼下の水路へと飛び込んでいた。
「ほう。じいちゃんも昔そこで飛んでいたぞ。懐かしいのう」
「ふーん」
「坊ももう少し大きくなったらやってみたらいい」
「ボクいいよ。だって怖いもん」
「うん。なあに怖いのは最初だけさ。一度とんじゃえば、あとは楽しくなるぞ」
「ふーん。じゃあ、じいちゃんできる?」
「今か?」
「うん」
「・・・どうだろうなあ。じいちゃん、ジジイになってしまったからな」
「できないんだ」
「・・・できないことはないと思うぞ」
「じゃあ、じいちゃん、やってよ」
「・・・そこまで言うならやってみるか」
「やったー!」
私は孫に威厳を見せる為に橋の上へやってきた。
「すまないな」
「おっちゃん飛ぶの」
「まあな」
中学生に譲ってもらい、私は欄干の上に立った。
「おおおおっ!」
子ども達から歓声があがる。
だいたい橋から飛ぶのが主流だが、むかし一歩上の連中はよりスリルを味わう為に、欄干に立って両手を広げて飛び込むのだった。
孫が羨望のまなざしで手を振っている。
「いざ、いくぞ」
私は颯爽と両手を広げ水路へと飛び込むはずだった。
・・・実際は足をすべらせ、顔面から水路へと落下・・・残念ながらその後の記憶がない。
気をつけないとね。




