毒酒
毒酒にまつわる・・・。
テーブルに対峙する二人。
「どうぞ」
女は静かに言った。
「ふむ」
男はグラスを持って、口元に運ぼうとするのを止め、テーブルに置いた。
「・・・・・・」
女のこめかみに汗が滲む。
男はすっとグラスを女の前に動かした。
「お前が飲め」
無慈悲にそう言った。
「何故、これはあなた様のお酒」
「よい。特別につかわす」
「はぁ」
女は震える両手でグラスを持った。
「・・・どうした」
男が尋ねる。
ふるふると震えるグラス。
「やはり毒か?」
男は覗き込むように女の表情を見た。
「滅相もありません」
「愛は憎しみより濃い・・・か」
男は呟き、女はグラスを床に投げ捨てた。
四散するグラスに床一面に飛び散る酒。
「よい」
「あなた」
愛憎の瞳を互いにぶつける。
「二度目は無いぞ」
男は念を押す。
「私は・・・ただ」
女は涙を浮かべる。
「よい」
男は家を出て高級車へと乗り込む。
後部座席にどっかり腰をおろし、運転手に車を出すよう伝える。
「アイツも終りだな」
男はドンペリを開け、グラスに注ぐ。
「左様ですか」
運転手は素っ気なく答える。
「ああ・・・だが、お前は若く美しい」
「左様ですか」
「ああ」
男は一気にグラスの酒を飲み干す。
「!・・・な・・・苦しい・・・お前・・・まさか」
もがき苦しむ男はその場へと倒れる。
「左様ですか」
運転手は同じ言葉を繰り返した。
エトセトラ。