滝壺
まさかっ。
逃げる男は、ついに崖まで追い詰められた。
眼下には滝が流れている。
(えーい、ままよっ!)
男は一か八か、滝壺に向かって飛び降りた。
激しい衝撃が身体を襲う。
(気を失うなよ。自分、滝裏に回り込めれば・・・くそっ、くそっ)
男は死に物狂いで、なんとか滝裏へと這い上がった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ずぶ濡れで肩を上下させる男の背後から、冷たい声がした。
「こんな所に人が来るとは、さてはお前盗人だな」
「ずいぶんな言い草だな」
「分かるとも。ワシはこの滝の主・・・お前たちが化け物と恐れる者だ」
「河童か」
「ふふふ、人はそう呼ぶかの」
「ふん」
「おい、人間、ワシは河童の王じゃ。お前を食らうこともできるぞ。どうだ恐ろしいだろう」
「やれるもんならやってみろよ」
「お主・・・喧嘩を売る相手を間違えておらぬか」
「売り言葉に買い言葉だろ。言いだしたのはそっちだ」
「ならば実力行使じゃ」
河童の目が赤く光り、身体が隆々と肥大する。
「馬鹿者っ!」
男は大喝した。
男の周りに神々しい光が宿る。
「誰に向かって言っておる」
「・・・人間」
「誰が・・・人間だ」
「お前だっ!」
河童は顎をしゃくって男を示す。
「私は神だっ!神々の戯れに敗れし神である」
神の降臨に、河童は腰を抜かし呟いた。
「・・・これが神々の黄昏っ」
まさかまさか(笑)。