13話 鮭の子たち
サール川の流れが青々と輝く季節。
川沿いの学校に、新たに整備された講堂が完成した。鮭の群れが力強く遡上する姿を彫り込んだ校章が
掲げられ、子どもたちは晴れやかな顔で登校してくる。
かつて川が濁流と化し、人々の暮らしが押し流されたあの頃、この学校も古びた木造校舎のままだった。
子どもたちは都市部へと流出し、戻らぬ者も多かった。
だが、鮭が戻ると村も変わった。
水が清くなり、森が生き返り、そして何より人々の誇りが戻った。漁業だけでなく、観光や加工産業、環境教育など多くの雇用が生まれ、地域は活気を取り戻していった。
この流れを絶やすまいと、村は教育に力を注ぎ始めた。
新設された「鮭川学舎」は、環境学や農水産資源、国際協力を柱とした総合教育を行い、希望者には他国への留学支援制度も整えられた。
「あなたたちは“鮭の子”だ。広い世界で養分を蓄え、いずれはこの故郷に戻ってきてほしい」
卒業式で語られた言葉は、子どもたちの胸に強く刻まれた。
村では彼らを愛情と敬意をこめて「鮭の子」と呼んだ。
卒業生たちは、海を越え、国境を越えて学び、技術を身につけた。
ある者は海外の研究機関で海洋資源管理を学び、ある者は貿易を担う外交官となり、またある者は環境
技術を持って帰国し、地域の浄水インフラに革新をもたらした。
彼らは、鮭のように逞しくなって戻ってきた。
村に新たな産業を呼び込む者もいれば、教育者として後進を育てる者もいた。戻らぬ者も、遠くからふるさとを支えるようになった。
「鮭のように、一度は遠く海を渡り、やがて、命の川へ帰ってくる」
その精神は次世代へと受け継がれていく。
そして今、村の岸辺では新たな「鮭の子」たちが、小さな手で稚魚を放流している。
彼らの背には、かつてその川から旅立った先輩たちの姿が、重なるように見えた。
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