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12話 鮭だけじゃなかった

川に鮭が戻ってきて数年。

その流れはもはや「ただの水路」ではなくなっていた。石の下では川虫が蠢き、岸辺ではアシが揺れ、流れの緩やかなところには水草が繁茂する。


ヘイジたちは、川の形を曲がりくねらせ、深みや浅瀬をつくり、堰の脇に魚道を設け、さらに上流に向かって「魚つき林」の整備を進めていた。ブナの森は毎年、静かに根を張り、水を蓄え、山の保水力を確実に高めていった。


そんなある夏の夕暮れ、地元の子どもが小声で言った。


「昨日、川でホタル見たよ」


最初は信じられなかった。

だが、それは確かだった。上流の支流では、川辺にふたたびホタルが舞い始めたのだ。淡い光が、ゆっくりと揺れながら、川霧と混ざり幻想的な風景を生み出していた。


そして、夜明けの静かな川面に目を凝らすと、銀の体をひらめかせて泳ぐイワナやヤマメの姿もあった。


冷たく澄んだ水を好む彼らは、かつて工事や濁水によって姿を消していたが、今は自然の流れの中で元気に泳いでいた。


鮭を呼び戻すために続けた山と川の再生は、思いもよらぬかたちで命を呼び戻していたのだ。


「この川は、生きている」


人々は言う。


「戻ってきたのは、鮭だけじゃなかったんだな」


それは、この土地が再び“いのち”に満ちていく兆しだった。


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